近年、がん化学療法に伴う心毒性を抑制すべく、さまざまな薬剤治療が試みられている。その1つがスタチンだ。小規模なランダム化比較試験(RCT)ではアントラサイクリン系薬剤使用に伴う左室駆出率(EF)低下に対する抑制作用が報告されていたものの[Acar Z, et al. 2011][Nabati M, et al. 2019]、近時の296例を対象としたRCT"PREVENT"はEF低下抑制を認めなかった[Hundley WG, et al. 2022]。
これに対し3月4日から開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会では、アントラサイクリン系薬剤治療下のリンパ腫例EF低下をスタチンが抑制したと結論する大規模RCT、"STOP-CA"が報告された。では「どれほど」抑制されたのか。Tomas G. Neilan氏(マサチューセッツ総合病院、米国)の報告を紹介する。
STOP-CA試験の対象は、アントラサイクリン系薬剤で治療予定のリンパ腫300例である。スタチンの適応がある例は除外されている。米国とカナダの9施設で登録された。
平均年齢は50歳(中央値は52歳)、女性が47%を占め、89%が白人だった。BMIの平均値は28kg/m2である。
アントラサイクリン系薬剤用量は平均で264mg/m2、中央値は300mg/m2だった(ドキソルビシン換算)。
リンパ腫例を対象としたのは、患者数が多く生命予後が良好な上、乳癌よりもアントラサイクリン系薬剤に伴う左室機能低下が著明だからだという。
これら300例はアントラサイクリン系薬剤開始前にスタチン群(アトルバスタチン40mg/日)とプラセボ群に150例ずつランダム化され、二重盲検下で1年間観察された。化学療法開始前のEF平均値は63%である(心臓MRI評価)。
その結果、1次評価項目である「EFが10%以上低下し55%未満まで増悪」の発生率はプラセボ群の22%に対し、スタチン群では9%の有意低値だった(P=0.002)。
なおClinicalTrials. gov記載の1次評価項目は「12カ月時点でのEFがスタチンで維持されるかを検討」である。
一方、探索的評価項目として比較された群全体としてのEF低下幅は、スタチン群で4.1%。プラセボ群(5.4%)との差は1.3%のみだった(P=0.029)。
また心不全を発症したのは全体で11例で、両群間に差はなかった。ただし本試験は心不全発症率の差を検討できるだけの検出力はないという。
有害事象は、筋症状、腎不全とも両群間に有意差を認めなかった。
前出のネガティブ試験PREVENTとの差が生じた要因を問われたNeilan氏は、(1)対象となるがん種の違い(PREVENTでは85.3%が乳癌)、(2)アントラサイクリン系薬剤用量の違い(PREVENTでは中央値240mg/m2)―を挙げた。
ちなみにPREVENT試験の1次評価項目は「24カ月後のEF差」である(群間差は0.08%)。
本試験は米国国立衛生研究所と国立心肺血液研究所から資金提供を受けた。
また報告と同時の論文公表はなかった。