低血圧をきたす原因がなく,一般的に持続して収縮期血圧100mmHg以下で,低血圧に基づく症状(臓器還流障害による症状)を認める状態である。
実臨床において,本態性低血圧と診断されることは多くない。重要なことは,低血圧を呈していても症状がなければ治療は不要である,ということである。起立時に,めまいなどの症状が出るなどの起立性低血圧を呈する症例においては,低血圧症とオーバーラップしていることが多い。小児では,起立性調節障害(OD)と混同される場合もあるが,ODの診断基準に血圧値の基準はない。
低血圧症をきたす疾患を除外することが最も重要である。たとえば,起立性低血圧に伴う失神であれば,健常人であれば繰り返すことは稀であり,何らかの自律神経障害をきたす神経疾患が背景にあることが多い。副腎機能不全も,低血圧や起立性低血圧を主症状とすることもあるので,必ず除外する必要がある。めまい,立ちくらみ,易疲労感といった一見不定愁訴ともとらえられるような症状が主であり,実際に精神的な要因も関わってくる症例もあるため,低血圧を改善させれば症状も改善するかどうかがわからない。
生活環境なども詳しく問診し,不規則な生活習慣であれば,その改善も指導する必要がある。症状が改善しないようであれば,体液量を増加させるために水分補給の励行とともに,1日10~20g程度の高塩分食の食事療法を行う。補助的な治療として,弾性ストッキングなどを使用する。下肢の筋肉の収縮はポンプ機能として下肢静脈の還流にも重要であり,運動習慣がなければ運動を励行することも重要である。症例によっては,心理療法が適応となる場合もある。
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