LDL-C低下治療の絶対的第一選択薬であるスタチンだが、筋障害のため服用できない患者がいる。そのようなスタチン不耐の頻度はランダム化比較試験(RCT)のメタ解析で4.9%、コホート研究メタ解析ならば17%と報告されている[Bytyçi I, et al. 2022]。さらにスタチン不耐により服薬を中止した例では、継続可能例に比べ心血管系(CV)イベントリスクが増加する。2万8266例を平均4.4年間観察した米国のデータでは、中止群において「死亡・心筋梗塞・脳卒中」絶対リスクが1.7%有意に上昇していた[Zhang H, et al. 2017]。
そこで期待が集まったのが、スタチンよりも上流でコレステロール合成を阻害するベンペド酸である。スタチン不耐例においても21.4%のLDL-C低下作用がプラセボ対照RCTで確認されている[Laufs U, et al. 2019]。そして今回、CVイベント抑制作用も証明された。3月4日から米国ニューオーリンズで開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会における、Steven Nissen氏(クリーブランド・クリニック、米国)の報告を紹介したい。
CLEAR outcomes試験の対象は、CV高リスク1次予防、またはCV2次予防で「LDL-C≧100mg/dL」ながら、スタチン不耐の1万3970例である。世界32カ国から登録された。
平均年齢は65.5歳、女性が48%を占めた。LDL-C平均値は139mg/dL。30%が高リスク1次予防例で45%が糖尿病を合併していた。
これら1万3970例はベンペド酸(180mg/日)群(6992例)とプラセボ群(6978例)にランダム化され、二重盲検で40.6カ月追跡された。
なお承認最小用量スタチン忍容例も参加可能だったため、試験開始時、両群とも23%がスタチンを服用していた。また両群ともPCSK9抗体とエゼチミブは主治医の判断で使用可能だった。
その結果、1次評価項目である「CV死亡・心筋梗塞・冠血行再建術・脳卒中」の対プラセボ群ハザード比(HR)は、0.87の有意低値となった(95%信頼区間[CI]:0.79-0.96)。治療必要者数(NNT)は63である。
両群のカプランマイヤー曲線は試験開始後1年を待たずに乖離し始め、その差は試験終了時まで開き続けた。
この傾向は、1次評価項目から「冠血行再建術」を除いた「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」でも同様だった(ベンペド酸群HR:0.85[95%CI:0.76-0.96])。
次にCVイベントの内訳を見ると、心筋梗塞(致死性・非致死性)と冠血行再建術はいずれも ベンペド酸群で有意なリスク低下が認められた一方、脳卒中(致死性・非致死性)、CV死亡では有意差を認めなかった。
HR(95%CI)は
心筋梗塞:0.77(0.66-0.91)
冠血行再建術:0.81(0.72-0.92)
脳卒中:0.85(0.67-1.07)
CV死亡:1.04(0.88-1.24)である。
なお総死亡HRも1.03(0.90-1.18)だった。
CV死亡・総死亡とも両群のカプランマイヤー曲線は乖離することなく、ほぼ重なったままで推移した。
脳卒中発症率に有意差を認めなかった理由としてNissen氏は「検出力不足」を挙げ、CV死亡と総死亡については「過去10年以上、LDL-C低下療法が生存を改善した臨床試験はない」とコメントしている。
CVイベント抑制の背景を見ると、 ベンペド酸群では試験開始3カ月後にはLDL-Cが21.7%低下し、観察期間を通じ同等の低下率が維持されていた。
またC反応性タンパク(CRP)も試験開始6カ月後には22.2%の低下を示し、この低下率も試験終了までほぼ維持されていた(プラセボ群では変化なし)。
次に有害事象だが、重篤な有害事象発現率は両群とも25%で、「有害事象による服薬中止」「糖尿病新規発症」「痛風」「胆石症」を含め発現率に有意差はなかった。
本試験はEsperion Therapeuticsからの資金提供を受けた。また報告と同時にNEJM誌に論文が掲載された。
余談だがNissen氏にとってニューオーリンズのコンベンションセンターは、「第二のスタチン」と期待されながらCVイベントを抑制できず、逆に死亡リスクを高めたCETP阻害薬の大規模RCT、"ILLUMINATE"を2007年に報告した会場である。今回の報告で悪い思い出は消え去っただろうか?