2017年に報告されたランダム化比較試験(RCT)"CANTOS"、そして19年報告の"COLCOT"ではいずれも、脂質代謝改善作用をもたない抗炎症治療による心血管系(CV)イベント抑制作用が示された。以来、アテローム性動脈硬化疾患に対する抗炎症治療が注目されている。
ではアテローム性動脈硬化疾患に対する標準治療であるスタチンがすでに用いられている例に対し、追加薬では「LDL-C低下」と「抗炎症」のどちらに重きを置くべきだろうか? このような問いに応えるべく実施されたRCTメタ解析が、3月4日から米国ニューオーリンズで開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会で報告された。抗炎症治療は想像以上に重要なようだ。Paul M Ridker氏(ブリガム&ウィミンズ病院、米国)による報告を紹介する。
解析対象となったのはスタチン治療下の心血管系(CV)高リスク例(1、2次予防)に対する、フィブラート、あるいはEPA製剤、オメガ3脂肪酸追加によるCVイベント抑制作用を検討したRCT "PROMINENT"(9988例登録)と"REDUCE-IT"(8179例)、"STRENGTH"(1万3078例)である。
まず各試験ごとに「CVイベント」と「CV死亡」、「総死亡」のリスクを、hsCRP濃度とLDL-C値四分位群別に算出し、その結果をメタ解析した。なお「CVイベント」に統一の定義はない。
3RCT参加者(3万1245例)の平均年齢はおよそ63歳、女性が占める割合は3割前後だった。BMIは30kg/m2強、58~100%が糖尿病を合併していた。
全例がスタチンを服用しており、高強度スタチン服用例の割合は31~72%だった。
試験開始時のLDL-C平均値は75~78mg/dL強、hsCRP濃度平均は2.0~2.3mg/Lだった。
「非常に良好に管理されている」とRidker氏は評した。
リスク評価の元になるhsCRP濃度、LDL-C値四分位群におけるそれぞれの値を、最小四分位群から順に見ると、
hsCRP濃度は「<1.1~1.2」「1.1~2.3」「2.0~4.8」「>4.2~4.8」mg/L、
LDL-C値は「<56~60」「56~78」「75~102」「>99~102」mg/dLだった。
さて解析の主題であるhsCRP濃度、LDL-C値四分位群別の、イベント発生リスクは以下の通り。
まずCVイベントだが、hsCRP濃度では最低四分位群に比べ第3四分位群ですでにハザード比(HR)は1.17の有意高値となり(95%信頼区間[CI]:1.07-1.28)、最高四分位群では1.31(1.20-1.43)となった。
一方、LDL-C値では「最高」四分位群におけるHRでさえ「最低」群と有意差はなかった(HR:1.07、95%CI:0.98-1.17)。
与える影響は脂質代謝よりも炎症のほうが大きい形だが、「この結果は意外だった」とRidker氏は述べた。
「CV死亡」も同様だった。hsCRP濃度では最低四分位群に比べ第2四分位群ですでに有意なリスク増加を認め、最高四分位群におけるHRは2.68(95%CI:2.22-3.23)だったのに対し、LDL-C値でリスクが有意に上昇していたのは最高四分位群のみ、しかもHRは1.27(同:1.07-1.50)と、hsCRP濃度最高四分位群に比べると有意に低値だった。
総死亡もまったく同じパターンだった。
質疑応答では、hsCRP濃度上昇に伴うHR増加が「CVイベント」よりも「CV死亡」で高かった理由が話題になった。Ridker氏はCV死因の詳細を把握していないため不明としながらも、hsCRP濃度上昇例ではより重篤な、つまり死亡リスクの高い虚血性心疾患をきたしていたのではないかと推測していた。
このように、脂質代謝と炎症ではCVリスクに与える影響が異なっている可能性がある。
そこで次にhsCRP濃度とLDL-C値の高低で4群に分け、CV死亡リスクを比較した。
すると「hsCRP濃度<2mg/L」ならばLDL-C値「<70mg/dL」と「≧70mg/dL」間でCV死亡リスクに差はなかった。一方、「hsCRP濃度≧2mg/L」であれば、LDL-C値が「<70mg/dL」であってもCV死亡HRは「hsCRP濃度<2mg/L、LDL-C値<70mg/dL」の約1.7倍まで有意に跳ね上がった。このHR増加幅は「hsCRP濃度≧2mg/L、かつLDL-C値≧70mg/dL」群と同等だった。
これらの結果からRidker氏は、強力なLDL-C低下治療に加えCVイベント減少には炎症抑制も必要だとの考えを示し、低用量コルヒチンやベンペド酸、そしてGLP-1受容体アゴニストとSGLT2阻害薬の有用性を示唆した。
ベンペド酸は本学会で報告されたCLEAR outcomes試験でも著明なhsCRP低下作用が報告されており、GLP-1受容体アゴニストはRCTメタ解析でCRP低下作用が確認されている[Mazidi M, et al. 2017]。
さらにRidker氏は減量や運動、健康な食事や禁煙にも抗炎症作用がある点に言及し、「抗炎症」という観点から生活習慣改善の重要性を再強調した。
解析対象となった3RCTの資金提供社は、今回の解析に一切関与していないという。
また本解析は報告と同時にLancet誌ウェブサイトで公開された。