まずはバイタルサインを評価し,ショック(出血),呼吸不全(誤嚥)や意識障害を呈していれば,安定化(輸液や輸血,酸素投与や気管挿管など)を図る。「口から血を吐いた」が主訴の場合,吐血,喀血,その他(嚥下した鼻出血や大動脈瘤の消化管穿通)などの鑑別が必要である。下血・血便は消化管からの出血が肛門より排出されることであるが,狭義には下血は「主に上部消化管出血によるタール便・黒色便」を,血便は「主に下部消化管出血による赤色調の便」を指す。
出血源推定,病態把握のために以下の病歴を聴取する。
出血の色調:吐血の性状,下血・血便の判別(①鮮血色なら食道出血か胃内停滞時間の短い大量胃出血,コーヒー残渣様なら胃酸で塩酸ヘマチンに変化した胃出血,②黒色便であれば上部消化管か小腸出血,暗赤色なら右側結腸,鮮血であれば左側結腸から肛門までの出血であることが多い,③消化管滞留時間に依存して色調が変化する)
肝疾患やアルコール多飲の有無:食道静脈瘤破裂
咳を伴う,気泡の混入:吐血ではなく「喀血」
心窩部痛の有無:上部消化管潰瘍
吐血前の飲酒や嘔吐の有無:マロリー・ワイス症候群
吐血前の鼻出血の有無:嚥下した鼻出血の嘔吐
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗血栓薬を含む服薬歴:薬剤性潰瘍や薬剤性腸炎
背部痛を伴う吐血:胸部大動脈瘤の食道穿通
食欲低下,体重減少や嚥下困難の有無:咽頭・喉頭癌や消化管癌などの悪性腫瘍
腹痛・下痢・発熱の有無:感染性腸炎,虚血性腸炎,炎症性腸疾患など
直近の内視鏡検査や放射線治療歴:医原性出血
救急診療の根幹であるA(airway:気道),B(breathing:呼吸),C(circulation:循環)の評価と安定化を図る。会話が可能かどうかで大まかにairwayを評価し,吐物による誤嚥や窒息を予防するために仰臥位で顔を横に向けるか側臥位とする。窒息による気道閉塞を疑えば,速やかに気管挿管を施行する。聴診やSpO2測定によりbreathingを確認し,呼吸不全を疑えば酸素投与を開始する。
出血に対する生体反応として,交感神経刺激・カテコラミン分泌により心拍数と心収縮力が増加したり,末梢血管収縮により血圧が維持され頻脈が先行することがあり,要注意である。shock index(SI=脈拍数/収縮期血圧)を算出し,1.0以上で出血性ショックを強く疑う。SI=1.0のとき,出血量は約1L=1000mLと推測される。
問診から出血部位を推測し,直腸診や肛門鏡で下血・血便の性状や,直腸肛門病変を確認する。黄疸,手掌紅斑,腹水(腹部膨隆)など肝硬変を示唆する所見があれば,食道静脈瘤破裂を考慮する。心窩部に圧痛や腹膜刺激症状があれば,上部消化管潰瘍(穿孔・腹膜炎)を疑う。
残り1,321文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する