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深頸部膿瘍[私の治療]

No.5160 (2023年03月18日発行) P.46

渡辺哲生 (大分大学医学部耳鼻咽喉科学講座准教授)

登録日: 2023-03-18

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  • 頸部筋膜間間隙に生じた感染症で,膿瘍を形成した場合である。原因は膿瘍の部位により異なるが,上気道炎,扁桃炎,リンパ節炎,う歯,異物等がある。嫌気性菌との混合感染が多いが,連鎖球菌,ブドウ球菌が起炎菌の中心である。気道狭窄,降下性縦隔炎,敗血症,大血管破裂などの重篤な合併症を引き起こすことがある致死性を有する疾患である。糖尿病,ステロイド投与中などの易感染性の症例に多い。

    ▶診断のポイント

    症状は発熱,これまで経験したことのないような激しい咽頭痛・嚥下痛,嚥下障害,開口障害,流涎,含み声,喘鳴,呼吸困難,頸部腫脹,頸部皮膚発赤等がみられる。血液検査では白血球数増加,CRP高値がみられる。

    上記症状がある場合は頸胸部造影CTを撮影する。浮腫辺縁の明瞭な造影効果やガス像がみられる。縦隔炎を合併することもあるので,CTは胸部まで含めたほうが無難である。造影剤使用が不可の場合,単純CTでのガス像や,MRI,穿刺により診断可能な場合もある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    基本的に外科的な切開排膿が必要である。致死性を有する疾患であり,本症が疑われる場合は造影CT,全身麻酔下緊急手術,気管切開が可能な専門医のいる高次医療機関へ紹介する。

    【治療上の注意点】

    重篤な合併症は降下性縦隔炎である。縦隔と連続している間隙は,舌骨上・下に及ぶ咽頭後間隙,頸動脈間隙,舌骨下の内臓間隙である。これらの間隙に膿瘍が存在する場合は,降下性縦隔炎に特に注意する必要がある。このうち咽頭後間隙,頸動脈間隙は傍咽頭間隙と自由な交通がある。傍咽頭間隙は多くの間隙と接しているため,傍咽頭間隙に膿瘍が及んでいる場合も注意を要する。

    深頸部膿瘍は感染症であるので,膿瘍の細菌培養検査を行うのは当然である。切開排膿術施行前に既に菌血症となっている場合もあるが,外科的治療により菌血症を生じる危険性もある。菌血症から急性呼吸窮迫症候群(ARDS)等の全身性合併症を生じる危険性もあるので,血液培養検査を術後に行ったほうがよいと考える。

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