抗凝固療法を要する心房細動(atrial fibrillation:AF)例への第一選択薬となった直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)だが、腎機能低下例では敬遠される傾向が報告されており[Campitelli MA, et al. 2021]、また減量不要例における不適切減量も珍しくない[Barra ME, et al. 2016]。
かかる事象の一因に「腎機能低下例へのDOACに対する安全性の懸念」があるのではないか—。そのような観点から実施されたメタ解析が4月12日、Circulation誌に掲載された。意外にも、低用量DOACのほうが標準用量よりも安全性は低い可能性が示された。著者はJosephine Harrington氏(デューク大学、米国)ら。概要を紹介したい。
解析対象としたのはAF例における脳卒中・全身性塞栓症リスク抑制をDOACとワルファリン間で比較したランダム化比較試験(RCT)である"RE-LY"、"ROCKET AF"、"ARISTOTLE"、"ENGAGE AF"に参加した患者の個別データである。
7万1683例(平均70.6歳、女性が37.3%)が23.1カ月(中央値)観察された形となった。
その結果、標準用量DOACではワルファリンに比べ、クレアチニン・クリアランス(CrCl)が低いほど「脳卒中・全身性塞栓症」抑制作用が強くなる有意な傾向を認めた。そしてCrCl「87mL/分未満」の集団ではワルファリン群に比べ、リスクは有意に低くなっていた。
一方、「大出血」と「頭蓋内出血」はいずれも、標準用量DOACとワルファリン間のリスク差にCrClの高低は有意な影響を与えていなかった(見かけ上はCrCl低値ほど標準用量DOAC群において、「頭蓋内出血」リスクは減少)。
このような標準用量DOAC群における、対ワルファリン群「脳卒中・全身性塞栓症」抑制と「頭蓋内出血」抑制傾向は、CrClが「25mL/分」に低下するまで一貫して認められた。標準用量DOACの腎機能低下に伴う有用性減弱は、認められなかった形である。
一方低用量DOAC群では、意外なことに「頭蓋内出血」リスクが標準用量DOAC群よりも高い傾向にあり、この結果はCrClの高低に影響を受けていなかった(ただし対ワルファリンではリスク減少傾向。CrCl高低には同様に影響を受けず)。
また低用量DOAC群における「脳卒中・全身性塞栓症」リスクはワルファリン群に比べ減少傾向となるも有意差なく(対標準用量DOACでは増加傾向)、この差はいずれもCrClの高低に影響を受けていなかった。
一方、低用量DOAC群における「死亡」リスクは、標準用量DOAC群・ワルファリン群のいずれと比べても、CrClが低くなるに伴い増加する有意な傾向が認められた。
これらより原著者らは、腎機能低下AF例に対する標準用量DOACの安全性と有効性が確認されたとすると同時に、腎機能低下AF例に対するDOAC減量の妥当性に疑問を投げかけている。
なお本メタ解析の対象となったRCTで用いられたワルファリンは、RE-LYが「1、3、5mg錠」、ROCKET AFは「1、2.5、5mg錠」、ARISTOTLEでは「2mg錠」のみ、ENGAGE AFが「(0.5)、1、2.5、5mg錠」だった。ある試験に参加した日本人医師は当時、「PT-INRの調整が難しかった」との感想を漏らしていた。