心室中隔欠損(ventricular septal defect:VSD)は,心室中隔に欠損孔を生じる疾患である。大動脈二尖弁を除くと,単独での発症頻度は先天性心疾患で最多である。出生児1000人に対し3人の割合で発症し,先天性心疾患の20~30%を占めるとされている。一方で成人期での有病率は,自然閉鎖により0.3/1000人程度にとどまるとされている1)。性差による発生頻度の違いはない。VSDは様々な疾患に合併しているが,本稿では合併疾患のないVSDに関する治療について記述している。臨床経過としては,未手術例のsmall VSDで肺高血圧,左室拡大,大動脈弁閉鎖不全,合併奇形を伴わない場合は通常無症状で経過し,修復術が必要となることはなく生命予後も良好である。一方でmoderate sized VSDやlarge VSDでは,修復術後25年生存率はそれぞれ約85%,約60%と不良である2)。large VSD症例は多くが左室機能低下や肺高血圧症を伴うか,Eisenmenger症候群を発症していることが多い。
VSDでは高調な汎収縮期雑音が胸骨左縁で聴取される。moderate/large VSDでは心尖が偏位し,汎収縮期雑音,心尖部での拡張期雑音,Ⅲ音が聴取される。Eisenmenger症候群に至っている症例では,症状として労作時呼吸困難,易疲労感,失神,動悸,胸痛を訴える。身体所見では右左シャントによるチアノーゼやばち指が認められ,右心不全症状として頸静脈怒張,肝腫大,浮腫を伴うようになる。
心電図:small VSDでは正常。それ以外ではシャント量や肺高血圧症の程度に依存して右室負荷所見が認められる。
胸部X線:生来のsmall VSD症例では正常。moderate sizeのVSDでは左室拡大と肺血管陰影の増強を認める。Eisenmenger症候群に至っている症例では,肺動脈近位部の拡大と肺血管影の低下が認められる。
心エコー:診断に有用な情報が提供される。欠損孔のサイズ,部位,血行動態,欠損孔の数,合併するその他の奇形が評価される。moderate sized VSDでは左房や左室の容量負荷により拡大を伴っていることが多い。large VSDで肺血管抵抗の上昇を伴っている場合は右室圧負荷による右室肥大を伴う。
心臓MRI:複雑心病変に合併したVSDや,流入路や筋性部欠損で心エコー評価が困難な症例で有用。大動脈弁逆流の評価や左室サイズ,機能の評価で有用。
心臓カテーテル検査:シャント血流量の評価や肺血管抵抗の測定,肺血管拡張性の評価などが行われる。造影検査により欠損孔の数や位置,大動脈弁逆流の評価が可能である。
残り1,955文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する