眼科疾患は大きく2つに分類される。失明する疾患,失明とは関連しない疾患である。眼科学では,視力のある人の失明は死を意味する。網膜剝離は,失明する眼疾患の最たるものである。ゆえに,本疾患の診断・治療は医師,患者にとって真剣勝負となる。人類の視機能を奪う疾患を封じることが可能になったのは,スイスのJules Goninが「網膜裂孔が網膜剝離の原因」であることを突き止めたことに始まる。その後の壮大な研究により,現代では,本疾患は網膜専門医により的確に治療される。以下に網膜剝離について簡潔に述べる。
網膜剝離の発症頻度は高まっており,20年前は1万人に1人と言われていたが,この数年で約7000人に1人と増加傾向にある。発症年齢も以前は20歳代と60歳代の二峰性と言われていたが,近年,高齢者を含むすべての年代に生じる病へと変化した。その理由は,近視の増加,高齢化,白内障手術の増加,の3つである。網膜は10層からなる約0.3mmの神経組織であり,中枢神経の一部である。視細胞層からの光による電気シグナルが網膜内の各層を経て増幅処理され,神経線維層を経て視神経から後頭葉に伝達され,高次中枢で初めてヒトは映像としてものを見ることができる。網膜剝離にかかると,網膜内の最下層の色素上皮層とその上にある色素上皮層の間に分断が生じる。分断された網膜は血流障害を伴い恒久的な機能障害につながり,患者は失明を余儀なくされる。分断の原因は,後部硝子体膜の剝離に伴う網膜裂孔の形成,続いて生じる液化硝子体の注入による。
代表的な症状は,飛蚊症,光視症,視野障害,視力障害の順である。特に,持続し頻出する飛蚊症は,よくみられる生理的飛蚊症と異なり網膜剝離の症状の特徴である。痛みはない。視野障害は下方鼻側にみられる頻度が高い。症状の進行は,急性と慢性の2つにわけられる。多くは急性型で,数時間で視野障害が急速に進むこともある。一方,慢性型では,進行はきわめて緩徐であり,数カ月の経過でようやく自覚する。
眼科一般検査に加え,散瞳を必要とする眼底検査(接触,非接触)で診断することができる。また,光干渉断層計(OCT)を用いて診断の補助をすることができる。近年,超広角眼底撮影装置を用いることもある。稀に,非裂孔原性網膜剝離との鑑別のために蛍光眼底造影検査や採血検査を行うことがある。
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