欧州高血圧学会(ESH)が5年ぶりに高血圧治療ガイドラインを改訂した[Mancia G, et al. 2023]。
薬剤治療を開始すべき血圧や降圧目標に、前回2018年版からの大きな変更はない。孤立性収縮期高血圧(ISH)の治療開始・目標が新設され、そのほかも若干の「余裕」を持たせた程度である。
6月23日から開催された学術集会のプレナリー(全員出席)セッション「ESH2023ガイドライン:全般」から紹介したい。
ESHガイドラインにおける薬剤治療開始血圧の決定基準は「そこから降圧して心血管系(CV)イベントを抑制したRCTが存在するか」である。そのため2018年版ガイドラインが根拠にしたエビデンスが否定されていない以上、基本的には変更はない。
すなわち18歳から79歳までは「140/90mmHg以上」、80歳以上は「160/90mmHg以上」まで上昇した時点で薬剤治療開始が推奨され、CV高リスク例に限り「130/85mmHg以上」での薬剤治療開始が「考慮可」である(いずれも「診察室血圧」)。
ただし今回のガイドラインでは微調整が加わった。
第一は「フレイル」例についての記述が新たに加わり、薬剤治療開始血圧考慮に「個別化が必要」と明記された。
また原則、収縮期血圧(SBP)「≧160mmHg」で降圧薬治療を考慮する「80歳以上」患者でも、身体的に若ければSBP「140-159mmHg」での薬剤治療開始が「考慮可」とされた。
ISHに対する薬剤治療開始基準は、今回初めて示された。原則はSBP「≧160mmHg」に対する治療開始が推奨されるが、「140-159mmHg」の治療開始も「考慮可」である。
降圧目標では2018年版で姿を消した「80歳以上」の個別降圧目標が復活した。原則として150/80mmHg未満、忍容できればSBP「130-139mmHg」である。ただし拡張期血圧(DBP)は70mmHgを下回らぬよう注意する。
また2018年版では冠動脈疾患例に対してのみ回避が推奨されていた「120/70mmHg」を下回る降圧が、今回ガイドラインでは全例で避けるよう推奨されている。
この点については質疑応答で、SPRINT試験の結果は評価しないのかとの声も上がった。
これに対しSverre Erik Kjeldsen氏(オスロ大学、ノルウェー)は「SPRINT試験の血圧測定には医療従事者が立ち会っていないので通常の診察室血圧よりも低く出る。SPRINT試験の結果を通常診察室血圧に置き換えれば、この推奨で問題ない」旨回答していたが、これはいかがだろうか(SPRINT試験血圧測定は医療従事者立会を禁じておらず、相当数は立ち会いのもと測定されている[Johnson KC, et al. 2018])。
ISHの降圧目標は「140-150mmHg」への降圧が「推奨」され、「130-139mmHg」への降圧も「考慮可」となっている。DBPが70mmHgを下回らないよう要注意なのは超高齢者と同様である。
一方、「18~79歳」の降圧目標は2018年版ガイドラインと同様、「<140/90mmHg」が原則で、治療に忍容できればさらに「<130/80mmHg」を目指すとのスタンスが維持された(糖尿病合併では特に「<130/80mmHg」を強く推奨)。
次報では降圧薬選択について紹介する。