欧州高血圧学会(ESH)が5年ぶりに高血圧治療ガイドラインを改訂した[Mancia G, et al. 2023]。
目を引いたのはタイトルだ。“2023 ESH Guidelines for the management of arterial hypertension”との表記。ESHとしてガイドラインを初めて公表した2003年以来、以降3回の改訂版すべてのタイトルに名を連ねていた欧州心臓病学会(ESC)の名前はない。初のESH単独のガイドラインである。その背景、そして改訂点を6月23日から開催された学術集会のプレナリー(全員出席)セッション「ESH2023ガイドライン:全般」から紹介したい。
ESCの名前が入らなかった理由を説明したのはガイドライン筆頭著者、欧州高血圧研究界の大御所Giuseppe Mancia氏(ミラノ・ビコッカ大学、イタリア)である。プレナリーセッション「ESH2023ガイドライン:全般」の終了を座長が告げたにもかかわらず、壇上に上がり説明を始めた。
同氏によれば、前回ガイドライン完成時に結んだ「約束」をESCに一方的に反故にされたのが、その原因だという。「約束」では今回も両学会が平等にガイドライン作成に関与し、両学会の名前で公表することになっていた。しかし昨年、ESCからESH会長に送られてきた書簡には、次回高血圧ガイドラインはESCが作成し、ESC名義で公表する、そしてガイドライン作成に関与できるESH会員は数名のみと記されていたという。
「同意していただけると思うが、これだけの専門家を抱える学会として飲める話ではなかった」とMancia氏。そのため単独での刊行に至ったという。経緯を説明する同氏の表情は苦渋に満ちていた。
さてESHによる2023年版ガイドラインでは、まず推奨の根拠となる「エビデンス」の評価(レベル付け)が変更された。
レベル「A」は「心血管系(CV)転帰改善を示すランダム化比較試験[RCT](のメタ解析)」である。「血圧・臓器障害」は「代替評価項目」とされ、それらを改善するRCTはレベル「B」、同様に「CV転帰改善」の観察研究もレベル「B」である。
変更の基礎にあるのは、RCTで評価されているというだけで「転帰」と「代替評価項目」が同じ扱いを受けるのはおかしいという判断だ。
そして「代替評価項目検討の観察研究」と「専門家見解」がその下のレベル「C」に位置付けられた。
加えて微調整もある。すなわち原則的なレベル分けは上記の通りだが、「バイアス」「一貫性」「代替評価項目の臨床イベントとの関係性」「正確性」などに疑問がある場合、1つ下のレベルに引き下げられる。
また推奨「クラス」からは「Ⅱa:考慮すべし」と「Ⅱb:考慮も可」の細分類が取り払われた。実臨床に反映させる場合に判別し難いというのが理由である。
その結果、推奨クラスは「明らかに有用」(クラスⅠ)、「有用かどうか不明」(クラスⅡ)、「明らかに有用性なし」(クラスⅢ)の3つに単純化された。
次報では具体的な推奨について紹介する。