細菌性髄膜炎は,病原体が「肺や消化器など遠隔感染巣からの血行性」または「近傍感染巣からの直達性」に,くも膜下腔に到達し発症する。市中または医療関連感染がある。自己融解や宿主・抗菌薬が関与した細菌溶解により,多様な微生物関連分子パターンが遊離した結果,サイトカインカスケードが誘導され,それによって起こる強い炎症が疾患の本態である。主要病原体(肺炎球菌,髄膜炎菌,インフルエンザ菌)に対するワクチンが定期接種化され,発生頻度は一時的に低下したが,非ワクチン血清型への置換と抗菌薬感受性が低下した細菌株の出現により,現在では世界中で増加傾向にある1)。なお,近年,米国では,侵襲性肺炎球菌感染症の要因となっている莢膜型22F,33Fを含む15価ワクチンが既に承認されている。
発症経過は,急性劇症型と,数日かけ進行性に悪化する場合がある。初期には頭痛(85.9~87.0%)や発熱(77~97%)などの非特異的症状を呈し,その後,髄膜刺激徴候(82.0~84.3%),意識状態の変化(66.0~95.3%),局所神経症状,痙攣発作などが出現する。成人で三徴を呈する典型例は44~51%と多くはなく,受診時の症状が軽微であったとしても,常に念頭に置き,診療にあたることが最も重要である。確定診断は髄液検査での病原体診断にて行うが,髄液検査の禁忌など何らかの理由で行えない場合には,血液培養を施行した上で,除外診断がなされるまで細菌性髄膜炎として治療すべきである。
治療は,①抗菌薬治療,②サイトカインストームの制御,③頭蓋内圧亢進状態,呼吸抑制,痙攣,難聴,肺炎などの合併症治療,④鎮痛,制吐,脱水などへの対症療法,である。
抗菌薬選択は,その地域におけるワクチン普及率,年齢階層別主要起炎菌の分布,耐性菌の頻度および宿主が有するリスクを考慮する。わが国においては,「細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014」 2)が公開されて以降,改訂されておらず,主要病原体に対するワクチン定期接種化後の起炎菌データが反映された診療ガイドラインはない。しかしながら,わが国では従来,抗菌薬耐性頻度は高く,それに対応した診療ガイドラインが作成されているため,現時点においても抗菌薬選択に大きな変化はないと考える。したがって,「細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014」に則り加療する。転帰改善には発症から初期治療開始までの時間が大きく影響するため,細菌性髄膜炎を疑った場合は速やかに治療を開始する。
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