高血圧に糖尿病(DM)を合併すると高血圧単独に比べ、心機能低下や器質的異常が著明になることが知られており[Grossman E, et al. 1996]、DMが血行動態とは無関係に心リモデリングを増悪させている可能性が指摘されていた。そこでシンガポール国立心臓センターのChee Jian Pua氏らは心臓MRを用いた詳細な検討を実施し、DM合併に伴う高血圧例の各種心室ストレインの増悪、その一因であろう心筋線維化進展などを見出した。Circ Cardiovasc Imaging誌7月11日掲載の論文を紹介する。
対象となったのは、シンガポール在住の心血管系疾患既往のない高血圧(140/90mmHg以上、または降圧薬服用)438例(「高血圧のみ」群)と、年齢・性別マッチの高血圧・DM合併167例(「DM合併」群)である。
平均年齢は60.3歳、男性が60.2%を占めた。
24時間平均血圧は130/79mmHg、高血圧罹患歴は10年だった。
これら605例全例に心臓MRを実施し、DM合併の有無別に各種指標を比較した。
その結果、左室重量そのものは「高血圧のみ」群と「DM合併」群間に有意差はなかった。一方、「DM合併」群では求心性の心肥大が有意に進展していた。
また「DM合併」群では「高血圧のみ」群に比べ、globalな壁応力指標である"Remodeling Index"が有意に増悪し、心筋ストレインも長軸、円周、短軸いずれの方向でも有意増悪を認めた。
左室駆出率も「高血圧のみ」群の61%に対し「DM合併」群は59%だが「DM合併」群で有意に低かった。NT-proBNP濃度に有意差はない。
次に器質的変化を比較すると、心筋線維化を認めた割合は「高血圧のみ」群の16%に対し「DM合併」群は28%の有意高値だった。左室重量が正常だった442例のみで比較しても同様で、「高血圧のみ」群(8.5%)に比べ「DM合併」群(25%)で有意に高かった。
そしてこの「DM合併」群における心筋線維化の進展程度は、炎症性反応増強や免疫細胞トラフィッキングと強い相関を示した。
これらの結果からPua氏らは、DMが血圧上昇とは別の機序で心臓リモデリングを増悪させているとした。機序としては炎症、特に免疫応答活性化による線維化増悪を想定しているようである。
本研究はシンガポール政府機関からの資金提供を受けて実施された。