1 小児感染症で保険適用の迅速抗原検査(RADT)─種類とコストの話
RADTの使用目的は病原体の抗原検出と,あくまでも「診断の補助」であることを忘れてはならない。また,独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PM DA)で“対外診断用医薬品”を検索すると,非常に多種類のRADTキットが販売されていることがわかる。それぞれ免疫学的検査判断料144点と,検査によって60~420点で,最低でも医療費として2000円以上かかっていることを知る必要がある。
2 検査精度とは─感度・特異度,的中率,尤度比
感度(Sn)を言葉にすると「病気がある人が,検査が陽性になる割合」であり,特異度(Sp)を言葉にすると「病気がない人が,検査が陰性になる割合」である。
感度・特異度の特徴はSpPIn,SnNOutを使用して覚える。SpPInは「特異度(Sp)が高い検査が陽性(Positive)のときにルールイン(In)に使用できる」という意味で,SnNOutは「感度(Sn)が高い検査が陰性(Negative)のときにルールアウト(Out)に使用できる」という意味である。それぞれ,だれが検査対象か,そして感染症の診断基準が何か,を確認するとよい。RADTは一般的に感度が高くないので,疾患の否定には向いていない。
陽性的中率(PPV)と陰性的中率(NPV)は,PPVは「検査が陽性の人が,病気がある割合」であり,NPVは「検査が陰性の人が,病気がない割合」である。臨床推論に沿った考え方だが,その結果の解釈は有病率に大きく左右される。感度が低い検査では有病率が高くても偽陰性は免れない。
陽性尤度比( LR+ )と陰性尤度比( LR- )は, LR+ =疾患がある人がない人に比べて何倍検査が陽性になるか, LR- =疾患がある人がない人に比べて何倍検査が陰性になるか,である。
ベイズの定理に基づき,「事前オッズ×尤度比=事後オッズ」という式が成り立ち,オッズと確率を計算することで,事前確率と尤度比から事後確率を導き出すことが可能である。実際にはノモグラムを用いて算出することができる。
3 事前確率(有病率)の想定方法
検査精度を理解して検査を適切に使用するには,さまざまな方法で事前確率である有病率がわからなくてはならない。感染症の場合,家庭内のシックコンタクトや周囲の流行状況,社会全体の流行状況,そして海外渡航歴などの情報を集める必要がある。
4 RADTの目的をはっきりと─医学的か公衆衛生的か
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行では,何はなくともまず検査,と「検査ありき」の診療風景が増えた。それは社会的・公衆衛生的要請があり,ある種仕方のなかったものの,COVID-19が感染症法上の5類疾患に区分された今こそ,自分が行っている検査が医学的なのか,公衆衛生的なのか,目的をはっきりとして使用すべきである。そして,検査の結果如何にかかわらず,症状ベースで学校や仕事を休めるような社会にしていきたい。