糖尿病性心筋症(diabetic cardiomyopathy)は,糖尿病病態による心臓自体の組織変化(リモデリング)と,その結果起こる心臓ポンプ機能障害(収縮不全・拡張不全いずれも)と定義できる。
高血圧や冠動脈疾患など,心不全の原因となる病態は併存症であることが多く,これらの合併が否定される心臓ポンプ機能障害は,糖尿病性心筋症が心臓リモデリングの主因と判断される。
糖尿病性心筋症に特異的治療法はない。糖尿病患者で何らかの心機能障害や心不全リスクを有する患者に,心不全予防の観点から,心不全にも適応症を有するSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン,ダパグリフロジン)の導入が推奨される。
糖尿病の本態である高血糖は,糖代謝ホルモン制御異常(インスリン・グルカゴン比,インクレチン効果)を主因とする。これら内分泌・代謝異常が心臓に与える影響については,現時点で主に,①酸化ストレス,②慢性炎症,③心筋インスリンシグナリング,④オートファジー異常,⑤心筋代謝リモデリング,⑥エピゲノム修飾異常,の6つの要因が報告されている。
これらの慢性的組織変化は,結果として心臓ポンプ機能にも影響し,臨床的心収縮・拡張能障害の原因となる。同時に,糖尿病早期から発症する糖尿病性腎症(diabetic kidney disease)は,うっ血・高血圧の増悪を惹起し,臨床心不全症状の増悪因子となる(diabetic cardio-renal interaction)。
糖尿病性心筋症は,「有意な冠動脈疾患や高血圧,明らかな遺伝疾患(糖原病やミトコンドリア変性疾患など)を原因としない糖尿病を合併し,それが主因であると診断可能な心機能障害(収縮不全・拡張不全は問わない)」と定義される1)2)。糖尿病性心筋症で認められる心臓病理組織学的リモデリングの特徴として,心筋細胞肥大,心臓線維化亢進,毛細血管密度低下,心臓異所性脂肪蓄積(cardiac steatosis)が認められ,さらに電子顕微鏡を用いた詳細な観察上は傷害ミトコンドリアの増加を認める。これらの所見は,心臓拡張機能不全の原因となりうることが示唆されている。
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