・1つの症状が複数の疾患や障害にまたがって存在する。
・精神障害そのものも単一の疾患ではなく症状群にすぎない。
・精神症状を見たらまずは身体疾患を除外する。
・そもそも漢方薬治療に質の高いエビデンスは存在しない。
・重症度は生活の障害度で判定する。
・中等症から重症では向精神薬治療を優先する。
・プライマリ・ケアでは診るべきではない状態を判断する。
・エネルギー(気)とうるおい成分(血・津液)の量と流れが生体の恒常性に関わる。
・抑うつはエネルギーの停滞と不足が病態であることが多い。
・イライラはエネルギーの停滞とうるおい成分の不足が病態であることが多い。
・症状によって以下の方剤を組み合わせる。
・エネルギーの不足を補う方剤,エネルギーの停滞を攻める方剤,上昇したエネルギーを降ろす方剤,熱を冷ます方剤。
・服用しやすさ,継続しやすさを重視する。
・まずは2週間で効果判定をしてみる。
・中止時期はコンセンサスがない。継続していく中で,自然に中止となることが多い。
・間質性肺炎,偽アルドステロン症,肝機能障害,腸間膜静脈硬化症,エフェドリン中毒・使用障害,アコニチン中毒。
・妊娠や授乳で注意すべき漢方薬。
精神症状は疾患・障害非特異的であり,1つの症状が多くの疾患・障害に認められる。不安は発熱,抑うつは痛みのようなものである。このように,身体疾患や精神障害に広くみられる症状であるため,「うつ症状があるからうつ病」という短絡的な考えを決して持ってはならない。特に,精神障害の中では統合失調症と双極症(双極性障害)を必ず除外すべきであり,本稿ではこれらの障害を除外したことを前提として進める。
個々の精神障害も単一の疾患として抽出されたものはいまだ存在しない。たとえばDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)やICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)の診断基準を満たしていたとしても,統合失調症やうつ病は,そう“呼び習わしている”一群にすぎない。症状のまとまりでとりあえず線引きをし,暫定的な合意としているのが現代精神医学の分類法であることは,覚えておいて損はないだろう。
現在私たちが手にしているエビデンスも,そう名づけられた患者さんを対象としたものであり,そこには本来であれば多種多様なはずの像が十把一絡げとなっている。逆を言えば,混沌に“名づける”という行為で分節化を図り,途上ながらもいくばくか前進してきたということでもあるだろう。私たちが今できるのは,現代精神医学を過大評価も過小評価もすることなく治療に応用し,これからの進展に期待しながら耐えることなのかもしれない。
前述したように,精神症状は多様な疾患・障害に認められるため,精神症状に出会ったときは,まず薬剤性を含む身体疾患を除外すべきである。なぜ身体疾患を第一とするかは,それが精神障害に対して優位であるため,ではない。身体疾患はそれなりの経過や検査所見,特異的な治療法を持つ場合もあるため,である。現代精神医学では,抗うつ薬はうつ病の特異的な治療法ではなく,対症療法とは言わないまでも近いもの,と考えてよいだろう。それと比較すると,身体疾患であれば原因疾患の検査と特異的治療が可能なものは多く,この違いは非常に大きいと考えられる。