後天性色素細胞母斑(以下,ほくろ)は,色素細胞(メラノサイト)の良性腫瘍である。発生や起源は未解明であり,その名の通り過誤腫である「母斑」という考え方もある。メラノサイトが悪性化したものが悪性黒色腫(メラノーマ)であるから,ほくろはメラノーマの良性カウンターパートと考えることもできる。しかし,ほくろがメラノーマになることは非常に稀であり,基本的に医学的な治療適用はない。顔面など場所によって美容的な見地から治療の対象となる場合がある。また,足底などメラノーマとの鑑別が問題になる場合は,生検による病理組織検査が必要である。
幼少時にメラノーマを生じることはきわめて稀であるため,先天性の小さな色素細胞母斑に悪性化の心配は基本的にないと言ってよい。日本人メラノーマの4割は掌蹠(手のひら,足の裏)に生じるが,足底の色素斑を主訴に来院する患者のほとんどが,いつからあったか自覚がない。明らかに幼少時にはなかった直径7mm以上の掌蹠の色素斑については,皮膚科専門医によるダーモスコピー検査を推奨する。
視診によるメラノーマとの鑑別のポイントは,左右対称性,辺縁の境界明瞭さ,出血や増大傾向の有無である。
顔面のほくろの場合,患者の多くは幼少時から自覚しており,最近膨らんできたと訴える。ダーモスコピー検査で悪性の所見がないか確認の上,美容的に患者の希望が強ければ治療対象となる。しかし,顔面の後天性のほくろを主訴に患者が来院した場合,本当にそれがほくろかどうかが問題となる。顔面には紫外線の影響から,基底細胞癌や脂漏性角化症(老人性いぼ),老人性色素斑(しみ)など「黒いできもの」は多種出現する。メラノーマや基底細胞癌をほくろと誤診して,レーザー治療を施行すると再発するのはもちろんのこと,再発時の拡大手術において本来よりも大きく切除する必要があることから,トラブルに発展しやすい。
顔面の皮膚癌の好発部位は,基底細胞癌が鼻周囲,メラノーマは頰とされている1)。これらの部位に単発で不整な形の「ほくろ」を診察した場合,もしかして悪性では,と疑うことが重要である。
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