静脈は,皮下を走行する表在静脈と深筋膜よりも深い部分を走行する深部静脈にわけられ,深部静脈に生じた血栓を深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)と言う。臨床的には下肢の深部静脈に生じることが多く,中枢に生じたDVTは閉塞部位の遠位部で腫脹・疼痛・色調変化が生じる。DVTは,肺血栓塞栓症の原因となるため,診断を見落としてはいけない。
下肢腫脹などDVTを疑う症状がある場合は,下肢静脈エコーやCTを用いて,DVTを診断する。ただし,症状が非特異的であるため,スクリーニングとしてDダイマーやWellsスコアを用い,検査の要否を検討する。肺血栓塞栓症の原因になることもあるため,息切れなどの症状にも注意し,造影CTを撮影する場合は肺動脈相も撮影する。
血栓の存在部位と症状により治療の方針を決定する。血栓中枢端が膝窩静脈(膝窩静脈を含む)より中枢側の場合を中枢型とし,前脛骨,後脛骨,腓骨,腓腹筋静脈,ヒラメ筋静脈である場合を末梢型とする。DVTの治療意義は肺血栓塞栓症の予防,下肢症状の改善,慢性期の血栓後症候群(post-thrombotic syndrome:PTS)の予防である。治療の第一選択は抗凝固療法であるが,急性期中枢型で症状が強い場合はカテーテル治療の追加も検討する。中枢型DVTにおいては,抗凝固療法が必須であるが,末梢型DVTに対しては,画一的な抗凝固療法は推奨されていない。筆者らは,DVT症状の強い,もしくは出血リスクの少ない担がんの末梢型DVT患者など,症例を選んで抗凝固療法を行っている。末梢型DVT患者に抗凝固療法を導入しない場合は,必ず1~2週間後に下肢静脈エコーによる経過観察を行い,中枢への進展がないか確かめる必要がある。中枢への進展のある場合は,抗凝固療法の導入を行う。
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