腹部大動脈瘤(abdominal aortic aneurysm:AAA)は,腎動脈分岐部以遠の腹部大動脈に広がる,大動脈径が30mm以上の瘤と定義され,大動脈瘤全体の半数以上を占める。特に動脈硬化との関連が強いと考えられており,高齢化に伴ってその頻度は増加傾向にあり,65歳以上の9%にAAAを認めると報告されている1)。ひとたび破裂すれば,その死亡率はおよそ50%程度との報告もあることから,破裂前にAAAを発見して,予防的に侵襲的治療を行うことが最も重要である。
多くの場合,破裂前には無症状であり,瘤径が拡大すれば,便秘などの症状が出現することもあるが,その頻度は高くない。したがって,健診における腹部エコーなどで発見の機会を増やすことが重要である。
AAAの根治的治療は心臓血管外科(以下,外科)の役割であり,内科医の役割はAAAの発見,侵襲的治療までの管理を行う橋渡しであることを認識すべきである。ひとたびAAAと診断されれば,ついでAAAの最大短径と形状を評価する。
紡錘状(大動脈の中心から均等に拡大している)であれば最大短径が40mmを超えたら,また囊状(偏心性に拡大している)であれば,突出の形が破裂の危険因子となるため瘤径に関係なく,一度は外科に紹介する。大動脈は蛇行することが多く,正確な瘤径や形態の評価は難しいため,評価に悩むなら外科に紹介することが望ましい。
現時点で瘤径の縮小を期待できる使用可能な薬剤はなく,降圧(破裂リスク軽減),スタチン(瘤径拡大予防),禁煙(破裂リスク軽減)などによって経過観察を行いつつ,手術適応径に近づいたら外科に紹介する。また,高齢を理由に治療を迷う患者には,血管内治療(endovascular aortic repair:EVAR)であれば,時として低侵襲であることを説明し,ADLや本人・家族の治療希望を再度確認の上,一度は外科医に具体的な治療内容を説明してもらうことが重要である。一方で,予防的治療を行わない場合,破裂後の救命は困難であることをよく理解してもらうことも必要である。
診断後はその大動脈径に応じて検査を行い,手術適応の至適時期を判断する。CTは被ばくが問題となるため,大動脈径が40mm未満の場合には腹部エコーで評価する。しかし,エコーは蛇行する大動脈の最大短径を評価することが難しい場合もあり,また術者の技量の差もある。大動脈径が40mm以上の場合にはCTによる評価が望ましい。画像評価の間隔は,大動脈径30~40mm:1~2年ごと,40~50mm:6~12カ月ごと,50~55mm:3〜6カ月ごとがガイドラインの推奨である2)。
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