65歳以上で新規透析導入となった場合、「腹膜透析」は「血液透析」に比べ「死亡」リスクを増やすことなく「脳心血管系イベント」と「悪性腫瘍」のリスクを有意に抑制する可能性が大規模観察研究の結果、示された。台湾・長庚記念病院のYu‑Kai Peng氏らが9月27日、Scientific Reports誌で報告した。
今回の解析対象は、台湾在住で2013~19年に維持透析が必要となった65歳以上の3万6852例中、傾向スコアでマッチした「腹膜透析」1628例と「血液透析」6512例の計8140例である。慢性腎臓病の診断歴がない例、また悪性腫瘍合併例は除外されている。同国の国民皆保険データベースから抽出した。
平均年齢は74歳、腎障害の基礎疾患は糖尿病性腎症が最多(約50%)で腎硬化症(21%)、糸球体腎炎(20%弱)が続いた。
また40%強に感染症入院の既往があり、心血管系入院既往も30%に認められた。
これら「腹膜透析」群と「血液透析」群間で、5年間の「脳心血管系イベント」「悪性腫瘍」「感染症」の発生率とリスクを比較した。
「脳心血管系イベント」リスクは「腹膜透析」群で「血液透析」群に比べ、有意に低くなっていた(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.66-0.83。発生率は10.1 vs. 13.0%/年)。
「脳心血管系イベントによる死亡」も同様で、「腹膜透析」群におけるHRは0.62の有意低値だった(95%CI:0.46-0.84)。
「悪性腫瘍」も同じく、「腹膜透析」群におけるHRは0.55(同:0.40-0.76)と有意に低かった(発生率は1.2 vs. 2.1%/年)。
一方「感染症」は「腹膜透析」群で有意なリスク増が認められた(HR:1.28、95%CI:1.20-1.37。発生率は34.1 vs. 24.1%/年)。
ただし感染症による死亡HRは0.93(同:0.81-1.08)と、有意差を認めない。
また「総死亡」リスクにも有意な群間差はなかった。
Peng氏らは「腹膜透析」「血液透析」両群間で「脳心血管系イベント」リスクに差があった原因を、「血液透析」実施時の「心筋スタニング多発」「透析時低血圧」「不整脈」「一過性の脳灌流減少」が合わさった複合的なものと考えている。
また「悪性腫瘍」については、韓国からもすでに同様の報告がある点を指摘した上で、血液透析で肝臓癌が増加していた可能性が考えられるとした。
本研究に関するCOIの開示はなかった。