安定狭心症は,心筋の酸素需要と供給の不均衡で生じる臨床症候群である。臨床経過から診断されるため,常に急性冠症候群(不安定狭心症)との鑑別を念頭に置きながら病歴聴取を行うことが重要である。言い換えると,安定狭心症と急性冠症候群(不安定狭心症)との関係は動的と銘記すべきである。
問診が最も重要である。狭心症として典型的な胸部症状か,症状は増悪していないか(閾値の低下,頻度の上昇,強度の増大,そして安静時胸部症状の出現),冠動脈危険因子(年齢,喫煙,糖尿病,高血圧,高LDLコレステロール血症,慢性腎臓病)をいくつ持っているかなどを確認する。確定のためには心筋虚血の証明と,必要があれば画像診断によって冠動脈狭窄病変を確認することが重要である。また,左室機能不全や心不全合併の有無を心臓超音波検査,胸部X線,BNPまたはNT-proBNPの値で確認する。
注意:β遮断薬を始める前には,徐脈や房室ブロックの存在,心不全合併の有無を確認する。また,活動性の気管支喘息の合併も確認する。
禁忌:ニトログリセリン製剤,特に短時間型硝酸薬(ニトロペンⓇ)とホスホジエステラーゼ5阻害薬(前立腺肥大症,勃起不全,肺高血圧症の治療薬)を併用すると,著しい低血圧を生じるため,併用禁忌である。
治療のコンセプトは,侵襲的な冠動脈カテーテル検査・治療を検討する前の①胸部症状の緩和,②心血管イベントの予防,である。また,それぞれを別個に評価することが重要である。胸部症状緩和のために抗狭心症薬(心筋の酸素需要と供給の不均衡の是正を基本とする)を投与し,後述する高リスク状態でなければ,十分な薬物治療を継続する1)。心血管イベント発生を予防するためには,血行再建や症状の有無にかかわらず,低用量アスピリンおよび管理目標値を設定したLDLコレステロール低下療法を行う2)。
症状の緩和と二次予防のために管理目標値を設定して薬物療法を強化し,かつ運動療法を含めた生活習慣を改善することは至適内科治療(optimal medical therapy:OMT)と称される。よって,OMTを行っても症状が改善されない症例や左主幹部病変,そして広範囲の心筋虚血の原因となる冠動脈病変症例は,高リスクの病態と判断して積極的に血行再建術を考慮すべきである。
治療方針決定には,胸部症状の程度,薬物治療の内容,さらに患者の考える(希望する)自身の今後の健康状態などを,医師と相談して判断する共同意思決定(shared decision making)が大事である2)。
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