新型コロナ・パンデミックは、医療や経済、国民の生活に多大な影響を与えた。2023年8月まで新型コロナウイルス感染症対策分科会会長を務めた尾身茂・結核予防会理事長に、政府の新型コロナ対策の評価と日本の医療とパンデミック対策の課題について聞いた。
わが国の新型コロナ対策の目標は、社会経済への影響を最小限にし、医療のひっ迫を防ぎながら死亡者数をできる限り低く抑えることでした。この目標の観点から見ると、わが国では、アジアで死亡者数が最多となった2022年も含め、欧米諸国に比べて人口対死亡者数を低く抑えられました。
一方、経済面に関してGDP(国内総生産)成長率の落ち込みを見ると、3年間の平均では欧米諸国と同水準というのが多くの経済学者の評価です。両方共低く抑えられれば一番良かったのですが、経済の回復に時間がかかったのは事実です。
1つ目は、一般市民の健康意識が高く、「三密回避」や「人との接触を8割削減」という国や自治体の行動変容の要請に、多くの人が応えてくれたからです。2つ目は、保健所と医療関係者が非常に厳しい状況に耐えて頑張った成果だと考えています。
3つ目は「ハンマー&ダンス」、つまり、政府・自治体が状況に応じた行動抑制と緩和を行ったことです。ハンマー役の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置は、地域の医療ひっ迫度合を基準に発令されました。
もちろんすべて成功したなどと言うつもりはなく、様々な課題が残りました。その1つが、専門家と政府の役割が不明確だったことです。