成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma:ATL)は,乳幼児期の母児感染によるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)キャリアの約5%が,50~60年の潜伏期間を経て発症する,治療難反応性の末梢性T細胞腫瘍である。HTLV-1キャリアは九州・沖縄を中心とする西南日本に多く分布しており,ATLも同地域に好発する。
核に切れ込みのある異常リンパ球(flower cell)を主体とする白血球増多が出現する。また,発症時に高カルシウム血症を合併することも多い。抗HTLV-1抗体陽性で,異常リンパ球がT細胞と判明したらATLと診断する。検査所見では,可溶性インターロイキン2受容体が高値を示す。
ATLは臨床病態,末梢血異常リンパ球数,高LDH血症,高カルシウム血症の有無などから,急性型,リンパ腫型,慢性型,くすぶり型の4病型にわけられる。このうち予後不良因子(BUN,アルブミン,LDHのいずれか1つ以上が異常値)を有さない慢性型,くすぶり型はインドレントATLに分類され,無治療経過観察で2.5~5年間の生存が期待される。一方,急性型,リンパ腫型,予後不良因子を有する慢性型はアグレッシブATLに分類され,急速な経過をたどることから多剤併用化学療法,または分子標的治療薬併用化学療法を施行するが,生存期間中央値は8~10カ月ときわめて予後不良である。
ATLに治癒をもたらしうる唯一の治療法は同種造血幹細胞移植で,70歳未満のアグレッシブATLで初期治療に反応良好な症例については,なるべく早期の移植実施に向けて準備する。ただ移植療法に到達するのは全ATL症例の20%未満で,移植実施例の3年全生存割合は約40%である。また早期移植関連死亡割合も高く,高リスクの治療法である。
再発・難治アグレッシブATLに対する標準治療は定まっていないが,数種類の分子標的治療薬が保険承認されている。ただ,いずれも奏効期間は短い。いずれの治療に対しても難反応性となった場合は,緩和療法を検討する。
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