咳は呼吸器疾患に伴い出現する代表的な症状のひとつであり,呼吸器疾患を十分に疑い,診断に基づいた原疾患の治療を行う。慢性的に継続する咳の場合にはより幅広い鑑別診断を考える必要があるが,同じく診断に基づいた治療を行う。咳の原因が診断された場合,あるいは検査の方針が定まった場合には咳への対症療法を考慮するが,対症療法によって気道分泌物の排泄が障害される可能性があることを考慮する。
呼吸器疾患を意識し,喘鳴,胸痛,息切れなど他の呼吸器症状の有無を確認する。また,アレルギー反応やアナフィラキシーの症状であることも考慮し,既知のアレルゲンへの曝露や,咳の出る場面が特定の状況に限られていないかなども確認する。ほかにも,肺水腫の可能性を考え,心疾患の随伴症状を確認することも重要である。3週間以上続く咳の場合は,心疾患,炎症性疾患,腫瘍性疾患,感染症などの広い鑑別診断を考慮し,病歴を聴取する。痰を認める場合はその性状を聴取し,感染症を示唆する黄色粘稠痰や肺水腫を疑うピンク色泡沫痰などの有無を確認する。呼吸器疾患・心疾患の既往やACE阻害薬の内服は重要であり,診断の一助となる。
SpO2を測定評価し,呼吸不全の有無・重症度評価を行う。発熱や低血圧があれば呼吸器感染症を疑い,血圧や心拍数の異常は心疾患を疑うが,バイタルサインのみで鑑別を進めることはできない。身体診察では中枢および末梢気道の呼吸音を聴取し,ラ音の有無,心音の聴取を行うことで,慢性閉塞性肺疾患(COPD),喘息,間質性肺炎,心不全,肺炎等の呼吸器感染症,アナフィラキシー等の気道狭窄などの鑑別診断を絞り込むことが可能となる。診察にて自己喀出痰が得られれば,前述の特徴があるかを確認する。