NPO法人「日本医学ジャーナリスト協会」の2023年度の協会賞のプレスリリースで、HPVワクチン接種後の健康被害を訴え、接種に反対するWebサイトを紹介していた。
「オリジナリティ」「社会へのインパクト」「科学性」「表現力」を基準に選考される同賞で、「選考にかかわった医学ジャーナリスト協会メンバーが注目したWebサイトの応募があった」と、受賞作でない「HPVワクチンのほんとうのことを知ってほしい実行委員会」のサイトを肯定的に紹介している。
その紹介文で、「知られていない副反応や後遺症があることを知った上で接種してほしい」と、若い女性らが立ち上げたサイトであることと、「大手メディアがワクチンの後遺症をとりあげない中、発信を続けている勇気を讃えたい」「選考基準からは若干はずれているが、オリジナリティ、社会的インパクトを評価したい」というコメントが掲載されている。このサイトは、たくさんの項目があるが、「聞いて! わたしたちの声」という体験談以外は、安全性にせよ有効性にせよ、最新のエビデンスや責任機関の声明とは相容れない内容である。
紹介文から、このサイトは「科学性」の評価を受けていないことが示唆される。それは「副反応や後遺症」という用語の使用からも明らかで、抗争中の薬害裁判で「副反応、後遺症」かどうかが争われているのだから、ここは「有害作用、接種後症状」とすべきだろう。被害者の言葉をカッコつきとはいえ、そのままをこの文脈で使うのは、中立が求められる受賞プレスリリースにはふさわしくない。また、過去に大手メディアが、この問題を科学性なく扇情的に取り上げたことが、接種率低迷の原因ではなかったか。
個人の「因果関係」についてもう1つ事例を紹介する。名古屋市立大学薬学部で、「新型コロナワクチンを考える〜ノーベル賞受賞技術の光と影〜」という特別講義が行われた。
これは、コロナワクチン接種後に症状が現れ、「患者の会」を組織した被害女性が、健康被害の体験や制度の実態と問題点について講演したものだ。ここでも、「副作用、後遺症」という用語が使用され、因果関係を前提とした講義がなされていた。
健康被害救済制度の因果関係の認定に当たっては「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合も対象とする」という方針で審査が行われている1)。これを「因果関係」と表現するのには、疫学者としては抵抗がある。そもそもこれは救済制度で、責任や賠償に関するものではない。
講義は、健康被害の体験談であり、健康被害は実在する。問題はその因果関係の判定であり、これは、過去の薬害がそうであったように、因果関係立証に向けての疫学的、科学的アプローチが必須である。因果関係のないところに薬害認定をしても、治療法開発や治癒には結びつかず、本当の意味での被害救済にはならない。
【文献】
1)厚生労働省:健康被害救済制度の考え方.
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001017433.pdf
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[ワクチン接種][体験談][健康被害救済制度]