昨年改定された「エビデンスに基づく CKD診療ガイドライン2023」では、ステージ5慢性腎臓病(CKD)に対しても、原則としてACE阻害薬・ARBを推奨している。この推奨の妥当性を裏打ちする観察研究が3月4日、Hypertension Research誌に掲載された。著者は名古屋大学(腎臓内科)の中村嘉宏氏ら。透析導入直前のレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)中止は生存には悪影響を及ぼさないものの、心血管系(CV)イベントリスクを増やす可能性が示された。透析導入直前RAS-i中止が転帰に及ぼす影響を検討した研究はこれが初めてだという。
解析対象は、新規透析導入の3カ月前まではRAS-i服用が確認されたCKD 717例である。愛知県におけるCKD患者前向きコホート"AICOPP"から抽出された。透析導入時の平均年齢は67歳、男性が68%を占めた。基礎疾患は糖尿病性腎臓病が51%、次いで腎硬化症(22%)、糸球体腎炎(16%)だった。また44%にCV疾患の既往があった。血圧平均値は153/77mmHg、カリウム濃度平均値は4.6mEq/Lだった。これら717例の9.3%が、透析導入時までにRAS-iを中止していた。
透析導入前RAS-i中止が「生存」と「CVイベント」リスクに与える影響を調べた。
・全体の転帰
死亡率は、3.5年間(中央値)で24%だった。またCVイベント発生率は、3.2年間(中央値)で32%だった。
・RAS-i中止の有無別転帰
死亡リスクはRAS-i「継続」群でも「中止」群に比べ有意な抑制は認めなかった(諸因子補正後ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.50-1.34)。一方、CVイベントのリスクはRAS-i「中止」群で「継続」群に比べ有意に高くなっていた(補正後HR:1.59、95%CI:1.06-2.38)。この「中止」群におけるCVイベントリスクの上昇は、「非CV疾患死亡」を競合リスクとして解析しても同様に有意だった。またこのリスク上昇は「75歳未満」で著明だった(交互作用P=0.012)。
中村氏は、「観察研究のためRAS-i中止とCV転帰増悪間の因果関係は確証できない」とした上で、透析前にRAS-iを中止するのであれば、CVリスクの積極的スクリーニングが必要ではないかと考察している。
本研究は名古屋大学から資金提供を受けた。