日本人間ドック学会が4月に公表した「新たな健診の基本検査の基準範囲」によって臨床現場で混乱が生じている問題で、同学会の山門實副理事長は17日、「血圧の基準範囲は定めないほうが良かった」との見解を示した。これは、横浜市で開催された日本高血圧学会総会ディベート企画「血圧の基準値を考える」の中で述べたもの。
日本人間ドック学会の基準範囲では、人間ドック受診者の中の「超健康人」約1万5000人の検査値から、血圧や血糖など27項目の95%信頼区間を基準範囲として設定。血圧は、147/94mmHgを高血圧の健診の基準とした。
これに対し、ディベート企画の座長で『高血圧治療ガイドライン2014』の作成委員長を務めた島本和明氏(札幌医大学長)は、国際的に高血圧の判定基準は140/90 mmHg以上であると強調。さらに、「基準範囲はRBC、WBC、AST、ALTなどの(肝臓病や癌の有無を見る)検査で使用されるべきで、高血圧に使用すべきではない」と指摘。疫学が専門の上島弘嗣氏(滋賀医大特任教授)もフロアから同様の見解を示し、混乱の原因は予防医学的閾値の「臨床判断値」と「基準範囲」の方法論を人間ドック学会が混同したことだと指摘した。
これに日本高血圧学会の評議員でもある山門氏は、「私は血圧の基準範囲は定めないほうがいいと思ったが、(人間ドック学会内で)公表したほうがいいとの意見が多かった。経年変化をみれば、将来の発症予防に有用だと思った」と釈明。これを受けてディベート参加者の楽木宏実氏(阪大教授)は「国民に向けて、血圧の基準範囲はなかったことにしないといけない。国民は臨床判断値と基準範囲の違いは分からない」と要請。島本氏も「多くの誤解と悪用が起きている。血圧に関しては基準範囲を使用しないという判断しか混乱の解決はない」と指摘し、「ぜひ人間ドック学会の説得を」と要請した。