心筋梗塞(MI)後に必須とされているβ遮断薬だが、左室駆出率(EF)「≧50%」例ではその後の心イベントは減少しないとの観察研究がある [Joo SJ, et al. 2021] 。そしてランダム化比較試験(RCT)を実施しても、同様の結果となった。4月6日から米国アトランタで開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会において、ルンド大学(スウェーデン)のTroels Yndigegn氏が "REDUCE-AMI"試験の結果として報告した。
REDUCE-AMI試験の対象は、MI発症から1~7日後で「EF≧50%」だった5020例である。他疾患でβ遮断薬の適応がある例は除外されている。スウェーデンとエストニア、ニュージーランドの45施設から登録された。
・患者背景
年齢中央値は65歳、女性は22.5%のみ。MI類型はST上昇型MI(STEMI)が36%だった。
MIに対しては現在の標準的治療が十分に実施されていた。すなわちPCI施行率は95%、β遮断薬以外の心保護薬服用率は、退院時、レニン・アンジオテンシン系阻害薬が80%、スタチンは98%だった。また97%がアスピリン、96%がP2Y12阻害薬を服用していた。
これら5020例はMI後標準治療を受けた上で、登録施設単位でβ遮断薬「服用」群と「非服用」群にランダム化され、非盲検で3.5年間(中央値)観察された。β遮断薬の種類と目標用量は、メトプロロール100 mg/日またはビソプロロール5mg/日である。
・有効性
1次評価項目である「全死亡・MI入院」の発生リスクは、中央値3.5年間の観察期間後、「服用」群と「非服用」群間に有意差はなかった。すなわち「服用」群におけるハザード比は0.96(95%信頼区間[CI]:0.79-1.16)、発生率は「服用」群が7.9%、「非服用」群は8.3%だった(発生率は当初想定より低かったが、予定通りのイベント数は確保)。この結果は、「服用」群を目標用量「達成」群と「非達成」群に分けた後付解析でも同様だった(スウェーデンデータのみ。Deep Diveセッションにて報告)。
全体で評価した2次評価項目も同様で、「HF入院」、「心房細動入院」にも有意差はなかった。またβ遮断薬「服用」が有用と思われる亜集団も存在しなかった。
さらに「服用」群における「呼吸困難」、「狭心症状」の改善も観察されなかった(スウェーデンデータのみ。Deep Diveセッションにて報告)。
・安全性
安全性にも両群間に差はなかった。徐脈や失神、慢性閉塞性肺疾患入院、脳卒中のいずれも「服用」群におけるリスク上昇は認めなかった。
Yndigegn氏は本研究について3つの限界を指摘した。
まず追跡は非盲検だった。加えて本試験の臨床イベントは、参加施設からの報告がそのまま採用されており、独立した委員会によるチェックは受けていない(PROBE法になっていない)。またクロスオーバも多かった。
スウェーデン登録4788例のみのデータだが、「非服用」群にもかかわらず11.3%がβ遮断薬を試験開始8カ月後には服用し、12カ月ではこの数字が14.3%まで増えていた(「非服用」群でも他疾患での適応が生じた場合は割り付け後のβ遮断薬開始可能)。「プロトコル遵守群解析」を実施したいところだが、エストニアとニュージーランドはアドヒアランス情報がなく、スウェーデンでも1年以降はデータがないため、不可能だという。
一方、Deep Diveセッション指定討論者であるニューヨーク大学(米国)のSripal Banglalore氏は、現代におけるMI後β遮断薬の有用性そのものに疑義を呈した。曰く、MI後β遮断薬の有用性を示した臨床試験はすべて、再灌流療法が一般化される以前のものであり、再灌流療法時代にMI後β遮断薬を検討したRCTのメタ解析では有用性は認められていない [Bangalore S, et al. 2014] 。「治療にも賞味期限があるべきだ。治療の進歩に伴う背景リスクの変化に応じて、古い治療は見直す必要がある」と同氏は結んだ。
本試験はSwedish Research Councilなどから資金提供を受けた。製薬会社からの資金提供はない。また報告と同時にNEJM誌ウェブサイトで公開された。