がん治療の心血管系(CV)リスクとしては心不全に注目が集まるが、アテローム性動脈硬化に起因する虚血性イベントリスクも著増する [Galimzhanov A, et al. 2023] 。しかしこのリスクは、「血圧」「血糖」「血清脂質」管理と生活習慣改善だけで大幅に低減できる可能性が、4月6日から米国アトランタで開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会で明らかになった。ワシントン大学(米国)のElena Wadden氏が米国の大規模前向きコホート解析の結果として報告した。
今回Wadden氏らが解析したのは、乳がん治療歴のある米国医療従事者7165例である。前向きコホート研究 "Women's Health Initiative" から抽出した。乳がん診断時の平均年齢は70歳、BMI平均値は28.4 kg/m2だった。
これら7165例を、乳がん診断前の "Life Essential 8" (LE8)スコアの高低別に分け、診断後CVイベントリスクを比較した。LE8スコアとは、米国心臓協会(AHA)が提唱している「CV系健康維持のために重視すべき指標」である8項目(LE8)を5~7段階に分け、達成度をポイント化したものである。高値ほど達成度は高い。
この8項目とは「血圧」「HbA1c」「非HDL-C」「喫煙状況」「BMI」「身体活動活発度」「食事健康度」「睡眠時間」―である。「喫煙状況」以降の要素は生活習慣である点が注目される。このLE8スコアで7165例を「低」「中」「高」の3群に分け、「冠動脈疾患死・心筋梗塞・脳卒中」(動脈硬化性イベント)リスクを比較した。
中央値6.0年の観察期間中、6.8%で動脈硬化性イベントが発生した。LE8スコア別に10年発生率を計算すると、「高」が1.5%、「中」9.1%、「低」では16.2%となった。
イベント発生曲線の差は、観察期間を通じで拡大し続けていた。
諸因子補正後のハザード比(95%CI)を算出すると、LE8スコア「中」「高」群とも、「低」群に比べ著明かつ有意な低値となっていた。すなわち、「中」群で0.62(0.50-0.77)、「高」群は0.42(0.25-0.73)である。
また「LE8」スコア「10ポイント」高値に伴い、動脈硬化性イベント相対リスクは18%、有意に低下していた。なおLE8個別項目の中では、「喫煙状況」と「血糖」「血圧」の3つが、「動脈硬化性イベント」との相関が強かった。
Wadden氏らは、LE8達成が乳がん既往例のCV疾患予防に有用ではないかと考察し、ランダム化比較試験など、さらなる検討が必要だと考察していた。
本研究は米国心肺血液研究所、ならびに保健福祉省から資金提供を受けた。