左室駆出率が40%以上に保たれている心不全(HF)、いわゆるHFmrEF、HFpEFに対するβ遮断薬の有用性は、観察研究を見る限り不明である[Arnold SV, et al. 2023、Kaddoura R, et al. 2024]。しかしランダム化比較試験(RCT)“DELIVER”の事前設定追加解析では、β遮断薬による「CV死亡・HF増悪」リスクの有意な低下が観察された。米国・ハーバード大学のAlexander Peikert氏らが、JACC:Heart Failure誌4月号で報告した。ただし逆の結果を報告するRCT解析もあり、議論は続きそうだ。
解析対象となったDELIVER試験に登録されたのは、標準治療にもかかわらず「EF≧40%」で「NT-proBNP上昇」を認めた症候性HF 6263例である。SGLT2阻害薬群とプラセボ群にランダム化された。β遮断薬服用率は83%(5177例)だった。ただしHF以外でも適応があると思われる例も多かった。すなわち服用例は合併症として89%が高血圧、57%は心房細動/粗動、53%が冠動脈疾患を有していた。なお19%には「EF≦40%」既往があった。全体の平均年齢は71.7歳、男性が56.1%を占めた。心拍数平均値は71.5拍/分、血圧は平均128.2/73.9mmHgだった。また全体では42.2%が心房細動/粗動を合併していた。EF平均は54.2%、75.3%がNYHA「Ⅱ度」だった。
これら6263例を対象に、β遮断薬服用が「CV死亡・HF増悪(入院・救急受診後利尿薬静注)」リスクに与える影響を検討した。β遮断薬「非服用」群との比較にあたっては、背景因子を補正した(年齢・性別や人種、「EF<40%」既往の有無、HF重症度、腎機能、CV転帰に影響する合併症など)。
その結果、中央値2.3年の観察期間後、β遮断薬「服用」群では「非服用」群に比べ「CV死亡・HF増悪」リスクの有意低下を認めた。諸因子補正後のハザード比(HR)は0.70(95%信頼区間[CI]:0.60-0.83)である。リスクの有意低下は2通りの感度分析でも認められた。さらに「CV死亡」と「総死亡」リスクも、β遮断薬「服用」群では「非服用」群に比べ有意に低下していた。補正後HRは順に0.66(95%CI:0.52-0.84)と0.83(95%CI:0.70-0.99)だった。一方QOLは「服用」群と「非服用」群間に有意差を認めなかった。なおSGLT2阻害薬による「CV死亡・HF増悪」抑制作用は、β遮断薬服用の有無に影響を受けていなかった。
同じくRCTである"TOPCAT"の米国集団解析では、DELIVER試験同様にNT-proBNP上昇症候性HFmr/pEFを対象としながら、「EF≧50%」例へのβ遮断薬による「HF入院リスク」有意増加が報告されている(CV死亡には影響なし)[Silverman DN et al. 2019]。
DELIVER試験はAstraZenecaから資金提供を受けた。