スタチンは85歳以上であっても、東アジア人の心血管系(CV)1次予防例のCV/生命転帰を改善し、安全性にも大きな問題はない可能性が、香港における大規模観察研究から明らかになった。香港大学(中国)のWanchun Xu氏らが5月28日、Annals of Internal Medicine誌で報告した。
わが国で実施されたランダム化比較試験 "EWTOPIA 75"はすでに、75歳以上の冠動脈疾患非合併高LDL-C血症に対する脂質低下療法の有用性を報告している。しかし85歳以上例に対する有用性は明らかでなく、またこれら後期高齢者に対するスタチンの安全性も不明だった。
本解析の対象となったのは、香港在住のCV1次予防例中、診療ガイドライン上スタチンの適応がありながら服用していなかった約40万例である。公的電子健康記録から該当全例を抽出した。
上記約40万例からその後スタチンを「開始」した例を特定し、背景因子が揃うよう傾向スコアを用いて同数の「非開始」例をマッチさせ(スタチン服用例は全例採用)、「CVイベント」(心筋梗塞・心不全・脳卒中)と「総死亡」「筋傷害/肝機能障害」のリスクを比較した(ランダム化試験模倣解析)。
その際、年齢で3群に分け(「60-74歳」「75-84歳」「85歳以上)、それぞれの年齢層ごとにスタチン「服用」例と「非服用」例をマッチさせた。
・スタチン開始率
マッチング前の、約40万例におけるスタチン開始率は「60-74歳」では28%、「75-84歳」ならば24%、「85歳以上」は19%だった。
・CVイベント
平均5.3年間の追跡後、「CVイベント」リスクはスタチン「開始」群で「非開始」に比べ、年齢の高低を問わず有意に低下していた。ハザード比(HR)は「60-74歳」が0.89(95%信頼区間[CI]:0.86-0.92)、「75-84歳」で0.94(95% CI:0.90-0.98)、「85歳以上」が0.85(95% CI:0.77-0.94)である。
・総死亡
総死亡も同様に、年齢の高低を問わずスタチン「開始」群で有意にリスクは低下していた。HRは順に0.87、0.90、0.83だった。
・筋傷害/肝機能障害
一方、「筋傷害」は、スタチン「開始」群と「非開始」群間に有意差はなかった。こちらも年齢の高低を問わず一貫していた。「開始」群におけるHRは年齢群が若い順に0.84(95% CI:0.71−1.00)、1.01(95% CI:0.74−1.39)、算出不可(8 vs. 0例)である。
「肝機能障害」も同様で、年齢の高低を問わずスタチン「開始」群における有意増加は認めなかった。HRは若年群から順に0.90(95% CI:0.86−0.93)、0.98(95% CI:0.92−1.04)、0.90(95% CI:0.76−1.05)となっていた。
本研究は国家機関からの資金提供を受けて実施された。