・毎年,熱中症による多くの労働災害が発生している。
・労働災害としての熱中症には,すべての年齢層において発生する,建設業や製造業での発生数が多い,重症者は屋外作業者に多い,などの特徴がある。
・暑熱環境における体温と体液の調節の生理的機序が熱中症の発症機序に関わっている。
・調節機構が維持できなくなった結果,熱中症の多彩な症状が出現する。
・重症度による分類がよく用いられる。
・労働現場で多い労作性熱中症と日常的に医療現場で多くみられる非労作性熱中症では特徴が異なる。
・労作性熱中症は健康な若年~壮年世代の労働者に多く,熱放散を上回る過剰な熱産生によって引き起こされ,数時間以内に急激に発症する。
・熱中症の予防対策は事業所でも既に行われているものの,効果が十分に出ていない。
・医学的知識を持つ産業医からの適切な助言指導が重要である。
・事業所と共通言語で話せるよう,一般的な熱中症予防の基本的な対策についての情報を提供することが望ましい。
・注意が必要な〈シーン別〉ポイントとは?
・昨今の労働衛生管理では,暑熱環境のリスクアセスメントにより自主管理の流れになっている。
近年,毎年のように,夏になると,「記録的猛暑」「異常気象」といった言葉が飛び交い,もはや異常が当たり前と思えるほど厳しい暑さを実感することが多い。気象庁の『気候変動監視レポート2022』によると,日本の年平均気温は100年当たり1.30℃の割合で上昇し,熱中症の危険性が高まる最高気温35℃以上の「猛暑日」や,夜間の体温低下や休息の妨げとなる最低気温25℃以上の「熱帯夜」の年間日数は,ともに増加し続けている。特に,1990年代半ば頃を境に猛暑日の日数が大きく増加している(図1)1)。
このように温暖化が進む中,国内では毎年多くの熱中症患者が発生している。総務省消防庁報告データによると,全国の5~9月の期間の熱中症による救急搬送者数は例年(2014~23年)約4万~9万人に上り,暑さの厳しかった2023年は過去2番目に多い9万1467人であった2)。また,熱中症による死亡者数は毎年約500~1500人と報告されている3)。