大動脈弁狭窄(AS)例では、心臓ダメージが進展するほど死亡リスクが高くなる [Généreux P, et al. 2017] 。これに対しレニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)は、心臓ダメージの進展度にかかわらず死亡リスクを低減する可能性が示された。ベルン大学(スイス)のDaijiro Tomii氏らが7月25日、Canadian Journal of Cardiology誌で報告した。ただし心不全進展が抑制されたわけではないようだ。
今回の解析対象は、ベルン大学病院にて経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を施行されたAS 2247例。連続登録されたTAVI施行3245例から「院内死亡」「pure大動脈弁閉鎖不全症」「心臓ダメージ評価画像情報不十分」「退院時RAS-i服用情報欠落」を除外した。
2247例のうち1634例(72.7%)が退院時にRAS-iを服用しており、さらに1634例のうち433例(26.5%)はTAVI後に服用を開始した。RAS-i「服用」群と「非服用」群で平均年齢に差はなかったものの(82歳)、合併率は「高血圧」で90.0 %vs. 79.4%、「糖尿病」で28.2% vs. 23.8%、「冠動脈疾患」で62.2% vs. 51.9%とRAS-i「服用」群で有意に高かった。
また左室駆出率(LVEF)平均値も53.4% vs. 56.6%と「服用」群で有意に低かった。「LVEF<40%」例の割合も17.2% vs. 9.7%と同様である。
一方、心保護薬服用率はRAS-i「服用」群で良好だった。すなわち「β遮断薬」は60.5% vs. 54.0%、「スタチン」は62.9% vs. 53.2%とRAS-i「服用」群で有意に高かった。
RAS-i「服用」群と「非服用」群間で退院後1年間の「総死亡」と「CV死亡」の発生率と発生リスクなどを比較した。
・総死亡
その結果、退院後1年間の死亡率は、RAS-i「服用」群で9.7%、「非服用」群は16.3%だった。「服用」群の「非服用」群に対する諸因子補正後のハザード比(HR)は0.59(95%信頼区間[CI]:0.45-0.77)の有意低値だった。
・CV死亡
CV死亡も同様で、退院後1年間の発生率はRAS-i「服用」群で 5.9%、「非服用」群で 10.3%となり、「服用」群のHRは0.58(95%CI:0.41-0.82)だった。
これらRAS-i服用に伴う「総死亡」「CV死亡」抑制は、心臓ダメージの程度にかかわらず認められた。
・「NYHA III/IV度」心不全発症
一方、これらの心不全発症率はRAS-i「服用」群(11.0%)と「非服用」群(13.3%)の間に有意差はなかった(HR:0.82、95%CI:0.59-1.15)。
Tomii氏らは、TAVI後RAS-i「非服用」の背景に「多くの合併症」や「フレイル」「ポリファーマシー回避」などが潜在していた可能性を指摘。解析ではそれらが完全に補正しきれていないおそれが否定できないとし、結果の解釈には慎重な姿勢を示している。
なおTAVI後RAS-i追加の有用性は現在、ランダム化比較試験 "RASTAVI"で検討中である。
本研究に外部からの資金提供はなかったとのことである。