高度な房室伝導障害により,心房からの興奮が心室にまったく伝わらなくなった病態。最も一般的な原因は,刺激伝導系に生じる特発性の線維化および硬化で,虚血性心疾患や弁膜症,先天性心疾患などの器質的心疾患に合併する恒久的なブロックと,薬剤の影響や電解質異常,迷走神経過緊張などによる一過性ブロックがある。ほとんどの患者でペースメーカ治療が必要となるが,近年ではリードレスペースメーカの登場により,ペースメーカのデバイス選択の最適化が求められる。
自覚症状を伴わない場合(無症候性)もあるが,しだいに持続性徐脈による息切れや易疲労感,労作時の心拍応答不全による運動不耐性が出現する。徐脈性心不全をきたした場合には,体重増加や浮腫など体うっ血徴候が顕在化する。一過性あるいは持続時間の短い間欠性ブロックの場合には,一過性の心拍消失によるめまいや立ちくらみを認める。房室伝導障害の程度により臨床症状の表現型は異なるが,いずれの病型においても進行した場合には失神前状態や失神(アダムス・ストークス発作)をきたす。
心電図では心房と心室の間の伝導が途絶するため,P波とQRS波は無関係に発生する(房室解離)。心機能は接合部または心室補充調律により維持される。ヒス束分岐部より上位に起源がある補充調律では,QRS幅は狭く,心拍数は比較的高く(>40回/分)なるため症状は軽度である(例:立ちくらみ,めまい,易疲労感など)。ヒス束分岐部より下位に起源のある補充調律では,QRS幅は拡大し,心拍数は前者に比し遅くなるため,より重度の症状(例:心不全,失神)を伴う。補充調律低下が認められる場合は,失神および心臓突然死のリスクが高くなる。また,血液検査は電解質異常や甲状腺機能異常,薬物中毒の鑑別に有用である。心臓超音波検査は左室駆出率のみならず,心臓の構造異常の有無や心サルコイドーシスなど特殊な心疾患の鑑別にも有用であるが,近年では心臓MRIも基礎心疾患の鑑別や心筋障害の有無,局在の把握に有用である。
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