急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)は,冠動脈内プラークの破綻やびらん,もしくは石灰化の突出に続発する血栓形成により引き起こされる,急性の心筋虚血である。高血圧,糖尿病,脂質異常症,喫煙,家族歴などがリスク因子と考えられている。ACSのうち,ST上昇型心筋梗塞(ST-elevation myocardial infarction:STEMI)は心筋の貫壁性虚血が起こり,心筋細胞の壊死が生じている状態であり,再灌流までの時間が予後に影響を与える。同じACSに含まれる非ST上昇型心筋梗塞(non-ST-elevation myocardial infarction:NSTEMI)や不安定狭心症と比べても早急な対応を要し,速やかな診断が重要である。
まず短時間で問診を行い,ACSとその他の疾患を鑑別する必要がある。ACSの鑑別疾患として,心臓疾患,呼吸器疾患,消化器疾患,大血管疾患,整形外科的疾患など様々な臓器・組織の疾患が挙げられる。鑑別疾患の中にも,劇症型心筋炎,大動脈解離,肺血栓塞栓症,緊張性気胸など重篤な疾患が含まれるため注意が必要である。ACSであっても歯痛,肩や腕の痛み,背部痛,腹痛,嘔気,めまいなどを主訴に受診し,典型的な胸痛を伴わないこともある。特に高齢者や糖尿病患者,女性では非典型的な症状を訴える場合があると言われており,注意が必要である。
ACSを疑った場合,バイタルサインの確認,心電図モニターの装着に引き続いて,12誘導心電図検査を速やかに施行する。ガイドラインには「10分以内に」と記載されている1)。STレベルはJ点(QRS波とST部分の移行点)で計測し,STEMIの診断は隣接する2つ以上の誘導でのST上昇と定義されている。対側性変化としてST下降がみられる症例もあり,ST下降に気を取られ他の誘導のST上昇を見逃す危険性もある。ST下降をみた場合には他の誘導でSTが上昇していないか,よく確認する必要がある。明らかなST上昇がみられない場合にも,発症早期でありST上昇がまだ生じていない可能性が,また胸部症状が増悪したときのみ所見がみられる可能性があるため,時間をあけて繰り返し心電図検査を施行することがガイドラインでも推奨されている1)。
STEMIでは,一刻も早い冠動脈の再灌流療法が患者の予後改善に重要である。海外よりも経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行可能施設が多くアクセスが比較的容易なため,わが国では再灌流療法の主流はPCIであり,血栓溶解療法の施行はきわめて少ない。近隣のPCI施行可能施設に早急に搬送して治療が必要である。
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