がんを予防するワクチンとしては、子宮頸癌などを予防することを目的としたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンがよく知られており、筆者も何度か本欄に寄稿をしてきた。実はHPVワクチンに先行してわが国を含む世界中の国で導入された、もう1つのがん予防ワクチンがある。それはB型肝炎ワクチンである。
B型肝炎は、血液や体液を介して感染することが知られており、1992年、世界保健機関(WHO)は、すべての国が1997年までにB型肝炎ワクチン接種を小児ワクチン接種プログラムに組み込む、という目標を設定した1)。実際、多くの国がB型肝炎ワクチンをNational Immunization Programに組み込んだ。
わが国においては、B型肝炎に感染した母体から出生した児のみに限定した母子垂直感染防止事業が1986年から先行して導入されてきた。この事業は母子感染予防には非常に有効であったが、対象者が限られており、成人を含むわが国全体のB型肝炎の予防に寄与することはできなかった。2016年以降、わが国においても、すべての乳児を対象としたB型肝炎ワクチンの定期接種が導入された。その結果、2023年現在、0〜4歳におけるB型肝炎ウイルス抗体陽性率は90%以上を維持している2)。
一方で、B型肝炎ワクチンは、2016年の定期接種化以前に出生した国民に対するキャッチアップは導入されなかった。その結果、同じ日本で出生した小児であるにもかかわらず、2023年の15〜19歳におけるB型肝炎ウイルス抗体陽性率は15%を下回っている2)。実際、筆者が担当している予防接種外来で母子手帳を用いて接種歴を確認すると、2016年以前に出生した小児のほとんどがB型肝炎ワクチン未接種のままとなっており、保護者はその存在すら認識していないことが多い。B型肝炎の重要な感染経路の1つとして性的接触による感染が知られており、わが国においては、まさにB型肝炎に対する免疫を有さない10歳代が性的活動性を有する年代に差し掛かっている。
現在、国内でキャッチアップ接種が行われているHPVワクチンと異なり、B型肝炎ワクチンは、定期接種する機会が与えられなかった国民に対する接種費用公費負担などは行われていない。そのため、定期接種適応以外の年齢における接種は自己負担が発生する。しかし、筆者は、HPVワクチンと合わせて、B型肝炎ワクチンの重要性も積極的に啓発する必要があると考えている。
【文献】
1)WHO:Wkly Epidemiol Rec. 1992;67(3):11-5.
2)国立感染症研究所:年齢群別のB型肝炎ウイルス抗体保有状況. 2023年.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/12603-hepb-yosoku-serum12023.html
勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[B型肝炎ウイルス][ワクチン][定期接種]