正常な耳管は普段は閉鎖しているが,嚥下,あくびなどにより短時間(1秒以内)開く。耳管機能不全は閉塞性障害(耳管狭窄症)と開放性障害(耳管開放症)に分類される。風邪症候群や急性上気道炎に伴う場合は数日で軽快,消失する急性の病態と,数カ月あるいは年余にわたり経過する慢性の病態がある。
閉塞性障害と開放性障害の症状は類似しており,時に診断に苦慮する。耳管機能検査は診断に有用であるが,検査装置がない場合は耳管通気の所見が参考になる。日本耳科学会のウェブサイトに診断基準が公開されている。
鼻咽腔粘膜の炎症が原因となることが多く,消炎のために薬物治療,鼻処置,ネブライザー療法を行う。中耳腔の陰圧解除,貯留液排液を促すために耳管通気,鼓膜切開術,鼓膜チューブ挿入術を行うこともある。なお,海外ではバルーンによる耳管開大手術が行われているが,わが国ではまだ普及していない。
誘因として疾病,過度のダイエットなどによる急激な体重減少が最も多い。運動による発汗,長時間の立ち仕事,ストレスも誘因となる。女性では妊娠,ピル内服が発症の契機となる。自声強聴が最もつらい症状である。不安解消のために発症機序を説明し,水分摂取,有症時に頭位を下げるなどの対処法を指導する。自然に軽快することも多く,保存的治療が原則である。
診察時に症状があれば生理食塩水点鼻を行う。効果が確認できれば自己点鼻を勧める。点鼻液が耳管咽頭口に到達するように,点鼻時には独特の頭位をとらせる。効果は短時間だが根気よく行うように指導する。特に嚥下時の異音(「バリバリ」など)に対しては点鼻が有効である。薬物治療として,わが国では漢方薬が処方されることが多いが,効果が認められなければ2~4週で処方を変更する。
この場合は耳管開放症と診断されやすいが,耳管狭窄症,耳管機能不全以外の疾患も否定はできない。体位による症状変化が明確であれば耳管開放症を疑い,耳管開放症の治療を行ってみる。体位による症状変化がはっきりしない場合は耳管狭窄症を考慮するが,耳管機能検査で正常な耳管開大能を検出できなくてもそれだけで耳管狭窄症とは診断できない。耳閉感は耳管機能不全を疑う症状であるが,他疾患が原因となることも多く,耳管機能不全が原因となっているのは3割以下との報告もある。内耳疾患,心因性などの可能性を常に考慮しなければならない。
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