急性虚血性心イベント後の心不全(HF)発症抑制には、レニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)[SAVE試験]やβ遮断薬[CAPRICORN Echoサブ試験]などの有用性が知られているが、スタチンでLDL-Cが十分に低下していない例ではエゼチミブ追加も、LDL-C低下作用とは独立して、HF入院を抑制する可能性が示された。わが国で実施されたランダム化比較試験(RCT)"HIJ-PROPER"データ回顧的解析の結果として、東京女子医科大学の吉川将史氏らが9月11日、Circulation Journal誌で報告した。
解析対象となったのは、日本在住で急性冠症候群(ACS)発症から72時間以内、かつ「LDL-C≧100mg/dL」だった1721例である(HIJ-PROPER試験参加1734例から、追跡不能となった13例を除外)。平均年齢は66歳、女性は3割弱のみだった。LDL-C平均値は約135mg/dL、eGFR平均値は74mL/分/1.73m2だった。
心保護薬はβ遮断薬服用率が10.3%、RAS-iが28.6%だった。なおHF診断歴があったのは2.1%のみである。
これら1721例はスタチン単独群とスタチン・エゼチミブ併用群にランダム化され、盲検化されることなく観察された。今回の解析では「HF入院」リスクに群間差が詳細に検討された。
・HF入院発生率
その結果、3.9年間の観察期間中、3.4%(59例)に「HF入院」を認めた。
・エゼチミブ併用の有無別発生率
エゼチミブ併用群における「HF入院」発生率は2.2%と、スタチン単独群の4.7%よりも有意に低値となっていた(ハザード比[HR]:0.47、95%CI:0.27-0.81)。両群のカプランマイヤー曲線は試験開始直後から乖離を始め、開始1年半後ほどまで差は開き続けた(その後はほぼ平行のまま推移)。
なおHIJ-PROPER試験メイン解析における「心血管系死亡」の発生率は、エゼチミブ併用群:3.0%、スタチン単独群:3.3%で有意差はない(2016年欧州心臓病学会報告スライド)。
・LDL-C値低下到達値別のHF入院リスク
エゼチミブ併用群におけるLDL-C到達値は65.1mg/dL、スタチン単独群では84.6mg/dLだった。そこでLDL-C到達値別の「HF入院」リスクをエゼチミブ併用群、スタチン単独群併合で解析した。しかしLDL-C値到達「最低」4分位群と他3群の間に、「HF入院」リスクの差はなかった。
一方「エゼチミブ併用」は、「LDL-C低下率」補正を含む多変量解析においても、「HF入院」リスクを有意に低下させていた。
このように「エゼチミブ併用」に伴う「HF入院」リスク低下は、LDL-C低下で説明ができない。そのため吉川氏たちは、エゼチミブによる抗炎症作用に伴う心筋保護作用(マウス)[Kato R, et al. 2015]が、HF入院抑制をもたらした可能性を指摘している。
HIJ-PROPER試験は、日本心臓血圧研究振興会から資金提供を受けた。今回の追加解析にはいずれからの資金提供もないという。