クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)は,医療施設において最も多くみられる嫌気性菌であり,かつ院内伝播する。本菌はヒトだけでなく家畜や伴侶動物,河川など幅広い環境から分離される。クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(C. difficile infection:CDI)では発熱や下痢などをきたし,発症には腸内細菌叢の破綻(ディスバイオーシス)が関与する。
入院患者の約10%に保菌者がみられる。Bristol stool scaleによる適切な下痢の性状評価と,Bristol stool scale 5以上の検体採取が必要である。GDH/トキシン検査における2ステップ法ならびに培養検査に加えて,トキシンB遺伝子検出検査(NAAT検査)を初期診断から用いることが推奨される。
CDIは再発が20~30%にみられる。再発は「適切な診療を受けたにもかかわらず,CDI発症後8週間以内にCDIを再度発症したもの」と定義される。高齢,過去の入院歴,消化管手術歴,慢性腎臓病や炎症性腸疾患などの基礎疾患,経鼻経管栄養の使用,制酸薬の使用は再発リスクである。したがって,PPI等の胃酸抑制薬や抗菌薬の適正使用もCDIの管理上は重要なポイントとなる。
わが国のガイドラインでは,発症既往,重症度,再発リスク,難治の評価を併せて行い,非重症と判断された場合はメトロニダゾール,重症と判断された場合はバンコマイシンを第一選択薬として推奨している1)。加えて,メタ解析によりフィダキソマイシンは初発群,非重症群において,バンコマイシンより有意に治癒維持率が高く,再発率が低いことが示されていることから,初発の非重症例においても再発リスクを有する場合や再発例には,フィダキソマイシンを第一選択薬として推奨している。なお,欧州や米国のガイドラインでは,いずれの初発例でもフィダキソマイシンが第一選択薬として推奨されている。
プロバイオティクス製剤は,腸内細菌叢の多様性の維持を含む改善により,抗菌薬投与による腸内細菌叢の減少を伴うCDIを含む抗菌薬関連下痢症に対して予防効果を有するとされる。わが国の診療ガイドラインでは,CDIの発症リスクを考慮しつつ,症例により総合的に投与を検討することとしている。
抗C. difficile薬は原則的に経口投与である。経口投与ができない場合は,メトロニダゾールの経静脈投与やバンコマイシン注腸投与が検討される。ただし,メトロニダゾールの経静脈投与は臨床効果が劣るとの報告がある。バンコマイシン注腸投与は全結腸まで到達しない。
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