がんサバイバーの増加に伴い、「がん治療関連心機能障害」(CTRCD)抑制の重要性が注目を集めている。しかし現時点ではCTRCD抑制作用が確認された薬剤はない。一方、近年CTRCD抑制作用が期待されているSGLT2阻害薬[Chong JH, et al. 2024]は、抗癌剤治療の種類を問わずCTRCD抑制が期待できるかもしれない。米国実臨床データベース解析の結果として、ベス・イスラエル・レイヒー・ヘルス(米国)のAmmar W. Bhatti氏らが9月22日、JACC CardioOncology誌で報告した。
解析対象の母体は、米国医療機関を受診した、心毒性を有する抗癌剤[Curigliano G, et al. 2020]治療下の2型糖尿病9万5203例である。心筋症や心不全診断歴のある例は除外されている。全国網羅電子健康記録データベースから抽出した。うち9403例がSGLT2阻害薬を服用していた。
傾向スコアでマッチしたSGLT2阻害薬「服用」「非服用」群それぞれ8675例間で、CTRCD(心筋症・心不全・要ループ利尿薬静注。ただし虚血性心疾患は除く)発現リスクを比較した。
・患者背景
傾向スコアマッチ後の平均年齢は66歳、42%を女性が占めた。心保護薬は、β遮断薬服用率が39%、ACE阻害薬は29%、ARB 24%、ARNiは1%未満、スタチンが59%だった。
・CTRCD(1次評価項目)
CTRCD発現リスクは、SGLT2阻害薬「服用」群(発生率:7.45%)で「非服用」群(同:10.9%)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.76、95%CI:0.69-0.84)。
さらに、SGLT2阻害薬「服用」群におけるCTRCDリスク低下は、抗癌剤治療の種類を問わずに認められた。すなわち、アントラサイクリン系薬剤(HR:0.70、95%CI:0.58-0.85)、モノクローナル抗体(同:0.81、0.66-0.98)、代謝拮抗剤(0.75、0.65-0.86)、小分子チロシンキナーゼ阻害薬(0.67、0.54-0.83)、アルキル化剤(0.63、0.53-0.76)―である。
・心不全増悪/死亡(2次評価項目の一部)
同様に「心不全増悪」もSGLT2阻害薬「服用」群で「非服用」群に比べリスクは有意に低下していた(HR:0.81、95%CI:0.72-0.90)。「総死亡」も同様である(同:0.67、0.61-0.74)。
SGLT2阻害薬によるCTRCD抑制の機序としてBhatti氏らは、細胞内代謝の変化[Verma S, McMurray JJV. 2018]、酸化ストレス/炎症の抑制[Lopaschuk GD, Verma S. 2020]を挙げている。
なおSGLT2阻害薬のCTRCD抑制作用を検討するランダム化比較試験としては、アントラサイクリン系薬剤治療下にある乳癌例を対象とした第Ⅱ相試験“PROTECT”が、2025年4月終了予定で進行中である[NCT06341842]。
本研究に対する資金提供の有無については、開示がなかった。