「弁護士を使えるのは指導・監査の場面だけではない」─。保険医に対する指導・監査・処分の改善を目指す健保法改正研究会(共同代表:井上清成弁護士、石川善一弁護士)のシンポジウムが9月29日、札幌市内で開かれ、指導・監査対策に取り組む弁護士らから、指導・監査以外の場面でも弁護士の役割を発揮すべきとの意見が相次いだ。
個別指導や監査での「帯同」以外の弁護士の役割について発表した山田瞳弁護士(のぞみ総合法律事務所)は、個別指導の結果として再指導通知を受けた後に依頼を受けた事案を紹介。個別指導での指摘事項を1つ1つ検証し、「指摘の論拠が見当たらない」「解釈に疑義がある」「診療実務と乖離する」「診療実務への影響が大きい」などの事項について厚生局に書面で照会、さらに面談にこぎ着け代理人として同席したと報告した。
山田氏は「当局との直接折衝を弁護士が引き受けることで、本人の心理的負担を軽減できる。面談の場面に代理人として関与することで風通しを良くし、当局による恣意的・威圧的な言動を牽制することもできる。私がいる場面でも若干恣意的な発言をすることがあったが、『いや、それは違うんじゃないか』と口を挟むことで対等性を回復できた。指摘事項の論拠についての疑義も解消し、公的な見解を獲得することができた」と成果を強調。これにより保険医も納得した状態で再指導に向けた再発防止を図れるようになったとした。
山田氏は「保険医の先生、保険医療機関の方にぜひ知っていただきたいのは、弁護士を使えるのは指導・監査当日の手続きの場面だけではないということ。指導・監査の手続きの外で行う私たちの代理活動こそ、弁護士の本領を発揮できる場面」と訴えた。
これを受け、研究会代表の井上弁護士(井上法律事務所)も「(弁護士の活動を)帯同だけに限局すると微視的なやりとりになりかねない」と述べ、弁護士の役割を広くとらえることの重要性を指摘した。
指導・監査による保険医取消処分を不服として処分の取消を求めた裁判で勝訴した経験を持つ研究会事務局長の溝部達子医師(みぞべこどもクリニック)は「私の事件では医療事務にスパイが入り、身内の書類を持って行かれるとか架空の請求を書かれるとかとんでもないことが起きた。自白で罪があると認めさせられたり証拠を捏造されたり、(再審で無罪判決が出た)袴田事件と非常に共通点を感じる」と自らの事件を振り返りながら、行政庁に広範な裁量権を認めている健保法が変わらない中でも「抑制力として」研究会の取り組みを継続することの意義を訴えた。
【関連記事】
不透明な指導・監査の「患者調査」にどう対応するか─健保法改正研究会シンポで討論
指導・監査での防衛手段として「録音」の有効性を確認─「再々指導」受けた病院からの報告