大動脈弁の開放制限により慢性的な左心室への圧負荷が起こる。これに対する代償として左室肥大,左室線維化の進行が生じ,最終的には左室収縮力が低下する。病因は加齢に伴う大動脈弁の変性が大部分を占め,先天性(特に二尖弁)やリウマチ性によるものがその他を占める。
胸部の聴診における収縮期駆出性雑音が特徴的である。重症度判定は主に心エコー検査で行うが,1回心拍出量が低下している場合は注意を要し,これを低流量低圧較差大動脈弁狭窄症(low flow, low gradient aortic stenosis)と呼ぶ。これは左室駆出率が維持されているものと低下しているものにわかれ,計測を慎重に行う必要があるが,重症度判定が困難な場合にはCTによる石灰化スコアが参考になる。
中等度の大動脈弁狭窄症においても左室収縮力低下をきたすことがあること,さらに左室収縮力低下は1年程度で急激に進行する傾向があるため,治療適応のタイミングを逃さないためには綿密なフォローアップが必要である。
冠動脈病変を高率に合併するため,重症に至っていない大動脈弁狭窄症においても単純CTでの冠動脈の石灰化評価や心筋シンチグラフィー,心臓造影CTによる評価を考慮しながらフォローアップを行う。
外科的大動脈弁置換術(surgical aortic valve replacement:SAVR)とカテーテル大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)の使いわけが重要である。TAVIの発展により,手術低リスク患者に対するTAVIの適応拡大や,劣化した外科的生体弁(surgical aortic valve:SAV)にカテーテル生体弁(transcatheter aortic valve:TAV)を植え込むTAV in SAV,劣化したTAVにTAVを植え込むTAV in TAVが行われるようになり,生体弁の耐用年数を考慮したlifetime managementという概念が議論されるようになっている。
治療の低侵襲化が急速に進むこの分野において,患者にとって真に良いと思われる治療を提供するには,循環器内科と心臓血管外科を中心としたハートチームの力量向上と適切なインフォームド・コンセントが必須である。
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