株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

学会レポート─2024年欧州心臓病学会(ESC)[J-CLEAR通信(173)]

No.5258 (2025年02月01日発行) P.60

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

登録日: 2025-01-30

最終更新日: 2025-01-29

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2024年8月30日から4日間、英国ロンドンで欧州心臓病学会(ESC)学術集会がオンライン参加を含むハイブリッド形式で開催された。参加者は医療従事者だけで世界117カ国からおよそ3万2000人。一般演題投稿数は4400本を超え、日本は中国、米国に続く第3位だった。減量薬をめぐる報告が多く見られたが、ここではより一般的な話題を紹介したい(9月上旬ウェブ速報に加筆・整理)。

TOPIC 1
MR拮抗薬でHFmr/pEF例の「CV死亡・全HFイベント」が有意減少:RCT“FINEARTS-HF”

ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬は、左室機能軽度低下心不全(HFmrEF)と左室機能維持心不全(HFpEF)に対する心血管系(CV)転帰改善作用が、ランダム化比較試験(RCT)“TOPCAT”の後付解析1)から示唆されている。本学会ではその点を非ステロイド型MR拮抗薬であるフィネレノンで検討したRCT“FINEARTS-HF”が報告され、同薬によるHFmr/pEF例「CV死亡・全心不全(HF)増悪」抑制作用が認められた。Scott D. Solomon(ブリガム・アンド・ウィミンズ病院、米国)が報告した。

興味深い亜集団データ、当日のやり取りを含め紹介したい。

【対象】

FINEARTS-HF試験の対象は、「左室駆出率(LVEF)≧40%」で「症候性」HFのうち、さらに①左房拡大/左室肥大と②NT-proBNP高値(≧300pg/mL、心房細動例では≧900pg/mL[EMPEROR-Preserved試験2)と同じ])を認め、③利尿薬治療を要した6001例である。ただし「血清カリウム≧5.0mmol/L」、「eGFR<25mL/分/1.73m2」例などは除外されている。世界37カ国の635施設から登録された(最多は中国の428例、ついで米国の355例、スペイン353例、ウクライナ327例、ロシア300例など)。

平均年齢は72歳で、女性が約45%を占めた。NYHA分類は「Ⅱ」が最多で69%、「Ⅲ」が30%だった。LVEF平均は53%、NT-proBNP濃度は中央値で1000pg/mL強だった。また60%にHF入院既往があった。治療薬はループ利尿薬、β遮断薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬(含ARNi)とも8割以上で用いられていた。

「典型的なHFmr/pEF患者だ」とSolomon氏は評価した。

【方法】

これら6001例をフィネレノン群とプラセボ群にランダム化し、二重盲検法で観察した。フィネレノンの目標用量はeGFR「≦60」mL/分/1.73m2なら20mg/日、それ以外は40mg/日とされた。

1次評価項目は「CV死亡・全HF増悪」である。「HF増悪」の内訳は「HF入院」と「HFによる救急受診」。初回だけでなく全発生が評価対象となった。

【結果】

・1次評価項目

32カ月(中央値)の観察期間後、1次評価項目の「CV死亡・全HF増悪」リスクは、フィネレノン群でプラセボ群に比べ相対的に16%の有意低値となっていた(発生率比[RR]:0.84、95%CI:0.74−0.95)。両群のカプランマイヤー曲線は試験開始直後から乖離を始め、その差は18カ月程度まで開き続けた(その後はほぼ平行)。

・CV死亡

ただしこの差はほとんどが「全HF増悪」によりもたらされた。1次評価項目から「全HF増悪」を除いた「CV死亡」は両群間に有意差を認めず、フィネレノン群におけるRRは0.93(95%CI:0.78−1.11)だった。

Solomon氏はこの結果を「発生数が少ないため検出力が不足していたため」と記者会見で説明。より大規模・長期間の検討を実施すればCV死亡でも有意差が観察されるとの見解を示した。ただし両群の「CV死亡」カプランマイヤー曲線が乖離しはじめたのはおよそ16カ月を経過した後で、両群間の差は小さく、(例数が少ないこともあり)試験終了に向かって差は縮小する傾向が見られた。

・SGLT2阻害薬の有無

事前設定された亜集団のいずれにおいても、フィネレノンによる「CV死亡・全HF増悪」抑制作用は一貫していた。特にランダム化時点におけるSGLT2阻害薬併用の有無も、フィネレノンの「CV死亡・全HF増悪」抑制作用には影響を与えていなかった(14%がSGLT2阻害薬を服用)。

またSolomon氏によれば、試験開始後にSGLT2阻害薬を開始した例を含めて解析しても同様の結果だったという。「SGLT2阻害薬に対して相加的な作用があると考えている」とのことだ。

・NYHA分類とQOLの改善

一方、3次評価項目の1つである「試験開始1年後におけるNYHA分類改善例の割合」は、フィネレノン群(18.6%)とプラセボ群(18.4%)で差を認めなかった。ただしもう1つの3次評価項目である「1年間KCCQ-TTS改善幅」は、フィネレノン群で有意に大きかった(8.0 vs. 6.4、P<0.001)。

・安全性

高カリウム(K)血症発現頻度はフィネレノン群で9.7%とプラセボ群(4.2%)に比べ高い傾向にあったが、「入院を要する高K血症」はそれぞれ0.5%と0.2%のみだった。

【考察】

質疑応答ではある亜集団解析にスポットが当たった。

本試験では「近時HF入院既往例」も参加可能だったため、HF入院からランダム化までの期間が「7日以内」、「7日~3カ月」、「3カ月超、またはHF入院なし」の3群にわけ、フィネレノン群における「CV死亡・全HF増悪」RRを調べた。その結果、HF入院から「7日以内」例ではプラセボ群に比べ0.74の有意低値だったのに対し、「7日~3カ月」では0.79と減弱し、「3カ月超、またはHF入院なし」では0.99(NS)となっていた。

質問者は低リスク例に対する有用性に疑問を感じたようだ。これに対するSolomon氏の回答は、これら3群間に有意なバラツキは統計学上認められなかったというものだった。なおSGLT2阻害薬をHFmr/pEFに用いたDELIVER試験では、このような傾向は見られない3)

FINEARTS-HF試験はBayer社から資金提供を受けて実施された。同社は試験デザイン設計にも関与し、最終著者を含む5名の社員が執筆者に名を連ねた。

本試験の主解析は報告と同時に4)、またランダム化時期別解析は米国心不全学会報告時5)に、論文が公表された。

TOPIC 2
アジア人HF例の転帰は白人よりも有意に増悪:RCT“PARADIGM-HF”/“PARAGON-HF”併合解析

アジア人や黒人では白人に比べ、心不全(HF)例の心血管系(CV)転帰が増悪するとの報告がある6)7)。しかしこれらは観察研究、あるいは介入方法の異なるランダム化比較試験(RCT)の併合結果という限界があった。そこでより均一性の高い2つのRCTを併合してこの点を検討したのが、Henri Lu氏(ブリガム・アンド・ウィミンズ病院、米国)である。

同解析でもやはり、アジア人HF例のCV転帰は白人よりも有意に増悪していた。

【対象】

今回解析されたのは、二重盲検RCT“PARADIGM-HF”と“PARAGON-HF”である。どちらも対象は症候性HFだが、前者は「EF<40%」、後者は「EF>45%」だった。いずれもサクビトリル・バルサルタン(ARNi)の有用性が検討されたが、対照薬は前者がACE阻害薬、後者はARB(いずれも認容最大用量)であり、レニン・アンジオテンシン(RA)系は全例で最大限に抑制されていた。

患者総数は1万2097例、56カ国から登録された。うち78.1%は白人だったが、アジア人も17.5%(2116例)を占めた(黒人は4.4%)。

【方法】

これら1万2097例で「CV死亡・HF初回入院」の発生リスクを、介入群・対照群を併せて人種別に比較した。「CV死亡・HF初回入院」はPARADIGM-HF試験における1次評価項目である(PARAGON-HF試験では「HF再入院」も含まれた)。

【結果】

・人種別「CV死亡・HF初回入院」

その結果、観察期間中央値2.5年間の「CV死亡・HF初回入院」発生率は、白人「9.9/100人年」に対し、アジア人は「12.0/100人年」、黒人は「16.4/100人年」だった。背景因子を補正後、対「白人」の「CV死亡・HF初回入院」ハザード比は、アジア人で1.32(95%CI:1.18−1.47)、黒人で1.68(同:1.42−1.98)と、いずれも有意に高値となっていた。

・ARNi vs. RAS-i

一方、ARNiによる「CV死亡・HF初回入院」抑制作用はどの人種でも、RA系阻害薬(RAS-i)に比べ強力だった(人種の影響を受けず)。

同様に、ARNi群とRAS-i群における有害事象発現率も、人種の影響を受けなかった。すなわち「血清クレアチニン上昇」や「高カリウム血症」「重篤血管浮腫」の発現は人種を問わずARNi群とRAS-i群間に差はなく、また症候性低血圧はARNi群で多い傾向があったが、これはどの人種でも同様だった。

【考察】

以上のように、全員がRA系を抑制されながらも、人種により「CV死亡・HF初回入院」発生リスクに有意差が認められた。この理由としてLu氏は、背景因子を補正しきれていない可能性を挙げた。併存症/既往症は言うに及ばず、医療へのアクセスなど社会的環境の違いが影響を与えているというのである。遺伝上の違いはさほど影響していないというのが、同氏のスタンスだ。

一方、HFに対するRAS-iの有用性を検討した初期のRCTからは、黒人におけるRAS-iのCV転帰改善作用減弱が報告されている(V-HeFT Ⅱ8)、SOLVD9))。しかしLu氏たちは今回の報告と同時に公表された論文10)において、近時のRCTメタ解析11)がそのような可能性に疑問を投げかけていると反論する。ただし同メタ解析においても、非黒人HF例(85%は白人)ではRAS-iにより「CV死亡・HF初回入院」リスクが有意に低下するのに対し、黒人では有意低下を認めない。また絶対リスク減少幅も非黒人の「4.0/100人年」に対し黒人は「2.8/100人年」と有意に低い。

高血圧の世界では白人と黒人で成因や病態に差があり、至適治療薬も異なるとされてきた。日本人の高血圧はこれら両者の中間だという専門家も存在する。慢性HFでもそのような差がある可能性はないのだろうか。

PARADIGM-HF試験とPARAGON-HF試験はNovartis社から資金提供を受けて実施された。なお今回の解析に関する、利益相反は開示がなかった。

TOPIC 3
MI後に開始のβ遮断薬は安全に中止できるか:RCT“AβYSS”

「心筋梗塞(MI)後にはβ遮断薬」。これは長らく、事実上の不文律となってきた。しかし根拠とされるエビデンスは、再灌流療法時代以前のランダム化比較試験(RCT)である12)。そのため再灌流療法が一般的となった現在、あらためてRCTを実施したところ(REDUCE-AMI試験)13)、左室機能が維持されていれば、MI後急性期~亜急性期からのβ遮断薬開始は心血管系(CV)転帰を改善しなかった。同試験が報告された2024年米国心臓病学会(ACC)では、「古い治療は見直す必要がある」との声も挙がった(No.5247、171回参照)。

ではMI後にβ遮断薬を開始した例でも、MI以外に適応がなければ、同薬を中止して大丈夫だろうか。本学会では,この点を検討したRCT“AβYSS”が、Johanne Silvain氏(ピティエ=サルペトリエール病院、フランス)により報告された。一見すると「継続」が良いようにも映る結果だったが、疑問を呈す声も上がった。

【対象】

AβYSS試験の対象は、MI後6カ月以上β遮断薬を服用中の、「EF≧40%」だった3698例である。MI以外にβ遮断薬の積極適応がある例(心不全や慢性的心筋虚血、不整脈など)は除外されている。平均年齢は63.5歳、男性が83%を占めた。EF中央値は60%である(四分位範囲[IQR]:52−60%)。MIは63%がST上昇型であり、全体で95%が再還流療法を受けていた。MI発症からランダム化までの期間中央値は3年弱である。

【方法】

これら3698例は、β遮断薬を「継続」する群と「中止」する群にランダム化され、盲検化なしで観察された(評価項目検証者はランダム化群が盲検化されたPROBE法)。1次評価項目は「死亡・MI・脳卒中・CV疾患入院」である。「中止」の「継続」に対する「非劣性」証明が目的とされた。

【結果】

・1次評価項目

中央値3年間(IQR:2.0−4.0年、最長5年)の観察期間後、「死亡・MI・脳卒中・CV疾患入院」の発生率は、β遮断薬「中止」群で「継続」群に比べ有意に高くなっていた(発生率23.8% vs. 21.1%)。この結果は事前設定されたすべての亜集団解析で一貫していた。この結果より、「中止」群の「継続」群に対する「非劣性」は否定された。割り付け群別(ITT)解析、プロトコール順守群別解析のいずれにおいても同様だった。

ただし両群間の差が著明だったのは「CV疾患入院」のみである(18.9% vs. 16.6%。「死亡」「MI」「脳卒中」の発生率差はいずれも0.12%以下)。なお先述の通り、本試験は盲検化されていない。

・2次評価項目

2次評価項目の1つとして評価された「QOL」は両群とも、試験期間を通じた改善は認められず、群間差もなかった。一方「心拍数」(開始時中央値:「63拍/分」)は「中止」群で「継続」群に比べ、中央値で「9.8拍/分」、有意に上昇した。ダブルプロダクト(心拍数×SBP)も同様で、「中止」群で「1616」の有意高値となった。

【考察】

以上の結果からSilvain氏は、MI後左室機能が保たれている例では、β遮断薬を中止すべきでないとの認識を示した。

・AβYSS試験の問題点(1)

これに対し指定討論者であるJane Armitage氏(オックスフォード大学、英国)は以下の2点を指摘した。

1点目は「非劣性マージン」が適切だったかという疑問である。本試験では同マージン上限を「3%」と設定していた。これは群間のイベント相対リスク差25%に相当する。そしてその前提である、β遮断薬「継続」群における1次評価項目発生率予想は12%だった。しかし現実には上述のように20%を超す予想外に高い発生率が観察された。その時点で「非劣性マージン」を見直す必要はなかったのか、という問いである。

・AβYSS試験の問題点(2)

そして同氏がもう1点指摘したのは、「継続」群で著明リスク低下を認めたのが「CV疾患入院」という患者・医師の主観に影響を受ける評価項目(ソフトエンドポイント)だけだったという点である。本研究のように盲検化されていない(治療の群間差が患者と医師にわかっている)場合、このようなソフトエンドポイントは信頼性が低い(CV入院中最多の理由は「冠動脈造影」)。

そのため、MI後β遮断薬中止の是非を判断するのは「死亡・MI・心不全入院」を評価項目として現在進行中のRCT“SMART-DECISION”(NCT04769362)の結果を見るまで(26年3月終了予定)保留すべきである─。これがArmitage氏のスタンスだった。

・REDUCE-AMI試験との違い

パネルディスカッションで話題になったのが、前出REDUCE-AMI試験13)との違いである。同試験では発症から1~7日のMI例において、β遮断薬「開始」は「非開始」に比べ「死亡・MI」を減少させなかった。

Silvain氏からは明確な見解が聞かれなかったがパネラーからは、AβYSS試験で示されたのはβ遮断薬「継続」による心保護作用ではなく、同薬「中止」による「リバウンド」の悪影響ではないかとの声が聞かれた。であるならば、REDUCE-AMI試験の結果と合わせると、MI後の安易なβ遮断薬開始は避けるべきという結論になるのだろうか。韓国で進行中の前出“SMART-DECISION”の結果を待ちたい。

AβYSS試験はフランス厚生省とACTION研究グループから資金提供を受けた。また報告と同時に、N Engl J Med誌ウェブサイトで論文が公開された14)

TOPIC 4
降圧薬「就寝前」服用の優越性、再び否定:RCT“BedMed”+RCTメタ解析

夜間血圧低下を目的とした降圧薬就寝前服用は、初期のランダム化比較試験(RCT)(MAPEC15)、Hygia16))において起床後服用に比べ著明な心血管系(CV)イベントリスク抑制が報告された。しかしその後、より厳格に実施されたRCT“TIME”17)ではその優越性が否定され(No.5140、148回参照)、有用性をめぐる議論が続いていた。そして本学会では、降圧薬就寝前服用と起床後服用を比較した最後の大規模RCTであるBedMed試験が報告され、降圧薬就寝前服用は起床後服用に比べ、有用性の点でなんら優れないことが確認された。Scott Garrison氏(アルバータ大学、カナダ)が報告した。併せて報告されたRCTメタ解析の結果もご紹介したい。

【対象】

BedMed試験の対象は、プライマリ・ケアにて1日1回型降圧薬を処方されていたカナダ在住の高血圧3357例である(1日複数回薬の併用可)。主な除外基準は、緑内障合併例とシフト勤務者、また施設居住者である。

平均年齢は67歳、女性が56%を占めた。また95%近くが白人だった。合併症/既往症は「睡眠時無呼吸」が最多で21.4%、ついで「糖尿病」の17.9%、「冠動脈疾患」の10.7%などが続いた。服用降圧薬数は単剤(含配合剤)が53.7%。2剤が34.7%だった。

【方法】

これら3357例は1日1回型降圧薬を「就寝前」服用(夕食時も可)群(1677例)と「起床後」服用群(1680例)にランダム化され、盲検されることなく観察された。1次評価項目は「死亡、または脳卒中・急性冠症候群・心不全による入院・救急受診」(MACE)である。これらイベントの有無は、電話・メールで照会した患者からの回答、ならびに公的医療記録で判定した。両者が食い違う場合は主治医に問い合わせた。イベント判定者は割り付け群を知らされていない(PROBE法)。

【結果】

・MACE

中央値4.6年間の観察期間後、1次評価項目であるMACEのリスクは、1日1回型降圧薬「就寝前」服用群と「起床後」服用群間に有意差を認めなかった(「就寝前」服用群ハザード比[HR]:0.96、95%CI:0.77−1.19)。発生率は「就寝前」服用群:2.30/100人年、「起床後」服用群:2.44/100人年である。

この結果は亜集団解析でも同様だった。年齢の高低や合併症/既往症の有無、使用降圧薬などでわけた、いかなる亜集団においても、「就寝前」服用群と「起床後」服用群間に有意差はなかった。

・安全性

2次評価項目として評価された「骨折」や「転倒」「失神」のリスクも両群間に差はなかった。「緑内障新規発症」と「視力増悪」、「認知機能」にも群間差は認められなかった。

【BedMed-Frail試験】

Garrison氏は、医療・介護施設居住の高血圧例を対象に同様の検討を実施したBedMed-Frail試験の結果も報告した。829例(86%に認知症)が1日1回型降圧薬「就寝前」服用群(424例)と「現状維持」(ほとんどが起床後服用)群(405例)にランダム化され、1.1年間(中央値)観察された(解析対象は776例)。

その結果、やはりMACEリスクは「就寝前」服用群と「現状維持」群間で差はなかった(「就寝前」服用群HR:0.88、95%CI:0.71−1.11)。同様に、「骨折」「転倒」「認知機能」「抑うつ」などへの影響にも、両群間に差はなかった。

なおBedMed、BedMed-Frail試験とも、降圧薬「就寝前」服用群と「起床後」服用群の血圧を比較できる適切なデータはないとのことである。早期の論文化が待たれる。

【メタ解析】

Ricky Turgeon氏(セントポールズ病院、カナダ)は、上記BedMed、BedMed-Frailを含む、降圧薬「就寝前」服用と「起床後」服用を比較したRCT 5報のメタ解析を報告した。対象RCTは「就寝前」服用の有用性を報告した「MAPEC」15)(2201例)と「Hygia」16)(1万9168例)、そのような有用性を認めなかった「TIME」17)(2万1104例)と今回の「BedMed」(3357例)、「BedMed-Frail」(776例)である。

その結果、「死亡・心筋梗塞・脳卒中・心不全増悪」発生リスクはやはり、降圧薬「就寝前」服用群と「起床後」服用群間に差はなかった(「就寝前」服用群HR:0.71、95%CI:0.43−1.16)。

【考察】

Garrison氏は「降圧薬は最も飲み忘れの少ない時間に服用すべきだ」と結論した。指定討論者のIsla S Mackenzie氏(ダンディー大学、英国)の結論も同旨である。メタ解析を報告したTurgeon氏に至っては「高血圧管理におけるクロノセラピーというコンセプト」そのものが(もはや)支持されないと述べた。

BedMed、BedMed-Frail試験に対する外部資金提供の有無は開示されなかった。ClinicalTrials.govによれば同試験のスポンサーはアルバータ大学のみである。

TOPIC 5
東アジア人高齢者への早期厳格降圧はどれほど有用か:RCT“STEP”延長試験

本学会では欧州高血圧学会と袂を分かってから初となる、欧州心臓病学会(ESC)独自の高血圧ガイドラインが公表された18)。最大の目玉は、一般的な降圧目標を「120−129/70−79mmHg」に引き下げた点である。この変更の根拠となったランダム化比較試験(RCT)の1つが、2021年ESCで報告された中国で実施されたSTEP19)である(No.5089、134回参照)。

今回の学術集会ではそのSTEP試験を6年間延長観察したデータが、Qirui Song氏(北京協和医学院、中国)により報告された。60歳以上に対する「収縮期血圧(SBP)<130mmHg」をめざした厳格降圧を早期から開始する有用性は、あまり大きくないようだ。

【STEP概要】

オリジナルのSTEP試験参加者は、中国在住で60~80歳の、脳卒中既往を認めない高血圧(スクリーニング時SBP:140~190mmHg、または降圧薬服用)8511例だった。これらは診察室測定SBP目標値別に「130mmHg未満(110mmHg以上)」(厳格降圧)群と「150mmHg未満(130mmHg以上)」(通常降圧)群にランダム化され、盲検化されず3.34年間(中央値)観察された。

その結果、1次評価項目の「複合心血管系(CV)イベント」(脳卒中・心筋梗塞・不安定狭心症による入院・冠動脈血行再建術・急性非代償性心不全・心房細動・CV死亡)発生リスクは、「厳格降圧」群で相対的に26%、有意に低下していた(Number Needed to Treat[NNT]:91/年)。一方、「死亡」リスクの群間差は有意とならなかった。

また「低血圧」は「厳格降圧」群で有意に多く、Number Needed to Harm(NNH)は「125/年」だった。

【対象】

今回解析対象となったのは、上記試験終了後の延長介入に同意した「厳格降圧」群3600例(84.8%)と、「通常降圧」群3521例(82.5%)である。上記試験期間にCVイベントをきたした例は除外されている。背景因子の提示はなかった。

【方法】

これら7121例は全例、SBP「130mmHg未満(110mmHg以上)」を目標とした厳格降圧を受け、33カ月間追加観察された。評価項目はオリジナルのSTEPと同じ「複合CVイベント」である。

【結果】

・血圧

追加観察期間中のSBP平均値は、元「厳格降圧」群128.7mmHg、元「通常降圧」群130.9mmHgで有意差はなかった。

・複合CVイベント

追加観察期間中(延長後の3年間)の複合CVイベント発生率は、両群間に有意差を認めなかった(元「厳格降圧」群:1.56%/年、元「通常降圧」群:1.43%/年)。複合CVイベントを構成する個々のイベントを比較しても同様で、有意差はなかった。「総死亡」も同様だった。

一方、試験開始から追加観察期間終了までの最長6年間で比較すると、元「厳格降圧」群の複合CVイベントリスクは、元「通常降圧」群に比べ有意に低くなっていた(ハザード比[HR]:0.82、95%CI:0.71−0.96)。発生率は元「厳格降圧」群:1.12%/年、元「通常降圧」群:1.33%/年である。つまり、早期からの厳格降圧開始によるNNTは477/年となる。なお、「厳格降圧」群における試験開始から追加観察期間終了までの「総死亡」HRは、1.06(95%CI:0.83−1.35)だった。

・安全性

試験開始から追加観察期間終了までの有害事象を比較すると、「低血圧」は元「厳格降圧」群で有意に多かった(期間を通したNNH:100)。一方、「骨折」リスクは逆に元「厳格降圧」群で低い傾向が見られた(HR:0.80、95%CI:0.44−1.45)。報告後の質疑応答ではこの点を高く評価する声も聞かれた。また腎イベントも両群間に有意差はなかった。

本報告に開示すべき利益相反はないとのことである。

TOPIC 6
「隠れAF検出による脳卒中初発抑制」はまたも確認されず:RCT“GUARD-AF”はネガティブ

心房細動(AF)は言わずと知れた心原性脳塞栓症のリスクである。そのためAFを無症候性の段階で検出して抗凝固療法につなげれば、脳卒中を減らせるかもしれない─。このような仮説のもと組まれたランダム化比較試験(RCT)はしかし、いずれもネガティブに終わってきた(LOOP20)、STROKESTOP21))。

そこでより大規模にこの点を再検討すべく計画されたのが、RCT“GUARD-AF”である。しかし無症候性AF積極的探索の有用性は、症例数がコロナ禍のため目標に達しなかったのを割り引いても、それを示唆するシグナルさえ観察されなかった。Renato D. Lopes氏(デューク大学、米国)が報告した。

【対象】

GUARD-AF試験の対象は、AF診断歴のない70歳以上の1万1905例である。経口抗凝固薬(OAC)服用例は除外されている。米国内149のプライマリ・ケア施設から登録された。試験設計時には5万2000例を登録予定だったが、COVID-19パンデミックの影響を受け、この例数にダウンサイズされた(登録遅延による資金提供打ち切り)。

年齢中央値は75歳、女性が57%を占めた。CHA2DS2-VAScスコアは中央値で3.0(四分位範囲:2.0−4.0)である。

【方法】

これら1万1905例は、パッチ式心電計を14日間装着する「AF探索」群(5952例)と「通常治療」群(5953例)にランダム化され、非盲検で観察された(「探索」群でAFが検出された場合、施設責任者が抗凝固療法開始の要否を判断)。1次評価項目は「有効性」が「脳卒中による入院」、「安全性」が「出血による入院」である。いずれも発生の有無は、診療報酬請求データベースを用いて確認した。

【結果】

・AF検出率

「AF探索」群で14日間の探索期間にAFが検出されたのは、4.2%だった。AF最長持続時間の中央値は72.3分間、2時間以上の持続が記録されたのは約25%だった。記録時間中に占めるAF持続時間割合(AF burden)は、中央値が0.78%だった。AFの分類は、心電図解析可能だった例(95%)中88%が発作性AFだった。

その結果、抗凝固薬を開始したのは「AF探索」群の4.2%。「通常治療」群との差は1.4%だった。

・脳卒中入院

予想に反し、中央値15.3カ月間の観察期間後、「AF探索」群における「脳卒中入院」ハザード比(HR)は「通常治療」群に比べ、1.10(95%CI:0.69−1.75)と高い傾向を認めた。発生率は順に0.7%と0.6%である。

・出血入院

同様に「出血入院」にも両群間に差はなかった。「AF探索」群におけるHRは0.87(95%CI:0.60−1.26)、発生率は1.0%と1.1%だった。

【考察】

Lopes氏は、積極的AF探索をするのであれば、より高リスクの患者をまず絞り込む必要があると述べた。また指定討論者であるGregory Lip氏(リバプール大学、英国)は、以下の3点を指摘した。

  • 第1点は、AFの見落としがあった可能性である。パッチ式心電計で得られるのはシングルリード心電図のみだった。
  • 第2点目は、“AF burden”が脳梗塞発生リスクに与える影響を検討する必要性である(同旨の発言はLopes氏からもあった)。
  • 第3点として、仮に積極的AF探索により脳卒中が抑制できるとしても、臨床的な有用性は大きくない可能性があるという。既報4RCT (3万5836例)をメタ解析すると、積極的スクリーニング群における有意な脳卒中リスク低下を認めるが、絶対リスク減少幅は1%のみだった22)

なおわが国の「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」は、「65歳以上の高齢者における定期的な検脈および心電図検査」を推奨クラス「Ⅰ」、エビデンスレベル「A」で推奨している。

GUARD-AF試験はBristol Myers Squibb社とPfizer社から資金提供を受けた。B社からは加えて3名が、論文筆者として名を連ねた。

本試験は報告と同時に、JACC誌ウェブサイトとJACC CE誌ウェブサイト(AF burden解析)に掲載された。

TOPIC 7
AF高リスク治療抵抗性高血圧対象の腎デナベーション6年観察データ─「AF抑制」「降圧」とも作用は持続:RCT“RD-PAF”

Symplicity HTN-1試験23)が治療抵抗性高血圧に対する経カテーテル的腎動脈焼灼(腎デナベーション[RDN])による降圧を報告してから15年がたった。しかしRDNの降圧作用持続性や臨床転帰への影響は必ずしもまだ明らかではない。

本学会では、小規模ではあるが心房細動(AF)高リスク例に対するRDNのAF発症抑制作用を検討した、ランダム化比較試験(RCT)“RD-PAF”24)の6年観察結果が報告された。RDNによる降圧作用、AF抑制作用はいずれも、観察終了時まで持続していた。報告者はMarshall Heradien氏(ネットケア・クイス・リバー病院、南アフリカ)である。

【対象】

RD-PAF試験の対象は、「降圧薬3剤併用で血圧管理不良」かつ「AF発症高リスク」の80例である。腎動脈焼灼RDN群と偽手技群にランダム化され観察された。観察期間中のクロスオーバーはない。平均年齢は66歳、男性が74%を占めた。降圧薬服用数の平均は4剤で、診察室収縮期血圧(SBP)平均値は148mmHgだった。また28%にAF診断歴があった。

【方法】

今回報告されたのは追跡期間を6年まで延長した、これら80例の「AF検出」(RD-PAF試験の1次評価項目)と「降圧」、「死亡」データである。脱落例はいない。AF検出に用いたデバイスは当初3年間が植え込み型ループレコーダー、その後は6カ月おきの(ホルター)心電計である。血圧は6カ月ごとに診察室血圧と24時間自由行動下血圧を評価した。「死亡」の有無は公的記録で確認し、死因は主治医に照会した。

【結果】

・AF検出率

その結果、6年間経過後もAF検出率は「RDN」群で有意に低かった(16.7% vs. 42.1%)。「RDN」群におけるオッズ比(OR)は0.28(95%CI:0.1−0.78)である。

・降圧作用

同様に「RDN」群では6年後の診察室SBPだけでなく、24時間平均SBPも「偽手技」群に比べ有意な低値が維持されていた。群間差は順に14.4mmHgと12.8mmHgである。ちなみに服用降圧薬の数も「RDN」群では19%減少していた(「偽手技」群では12%増加)。

・死亡率

さらに「RDN」群では「死亡」率も、「偽手技」群に比べ有意に減少していた(10% vs. 32%)。ORは0.23(95%CI:0.07−0.79)である。両群のカプランマイヤー曲線の差は、観察終了時まで拡大し続けていた。ただし心血管系死亡は、心筋梗塞死の4例(全死亡の25%)だけである(全例「偽手技」群)。最大死因は「敗血症」の7例(RDN群:2例、偽手技群:5例)、ついで「COVID-19」の4例(1例 vs. 3例)だった。

【考察】

「RDN」群で死亡率が低かった理由につきHeradien氏は、「SBPの著明低下」や「AF発症抑制」が作用した可能性を挙げながらも「基本的には不明」とし、より大規模な研究による確認が必要だと結んだ。

RD-PAF試験のスポンサーはPace Clinic、今回の延長観察はMedtronic社のサポートを受けた。

【文献】

1)Pfeffer MA, et al:Circulation. 2015;131(1):34-42.

2)Anker SD, et al:N Engl J Med. 2021;385(16): 1451-61.

3)Solomon SD, et al:N Engl J Med. 2022;387(12): 1089-98.

4)Solomon SD, et al:N Engl J Med. 2024;391(16): 1475-85.

5)Vaduganathan M, et al:Circulation. 2025;151(2): 149-58.

6)Dewan P, et al:Eur J Heart Fail. 2019;21(5):577-87.

7)Piña IL, et al:J Am Coll Cardiol. 2021;78(25):2589-98.

8)Carson C, et al:J Card Fail. 1999;5(3):178-87.

9)Exner DV, et al:N Engl J Med. 2001;344(18):1351-7.

10)Lu H, et al:JACC Heart Fail. 2025;13(1):58-71.

11)Shen L, et al:JAMA. 2024;331(24):2094-104.

12)Zeitouni M, et al:Am J Cardiovasc Drugs. 2019;19 (5):431-8.

13)Yndigegn T, et al:N Engl J Med. 2024;390(15): 1372-81.

14)Silvain J, et al:N Engl J Med. 2024;391(14):1277-86.

15)Hermida RC, et al:Chronobiol Int. 2010;27(8): 1629-51.

16)Hermida RC, et al:Eur Heart J. 2020;41(48):4565-76.

17)Mackenzie IS, et al:Lancet. 2022;400(10361): 1417-25.

18)McEvoy JW, et al:Eur Heart J. 2024;45(38):3912-4018.

19)Zhang W, et al:N Engl J Med. 2021;385(14):1268-79.

20)Svendsen JH, et al:Lancet. 2021;398(10310): 1507-16.

21)Svennberg E, et al:Lancet. 2021;398(10310): 1498-506.

22)McIntyre WF, et al:Eur Heart J Open. 2022;2(4): oeac044.

23)Krum H, et al:Lancet. 2009;373(9671):1275-81.

24)Heradien M, et al:Heart Rhythm. 2022;19(11): 1765-73.

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top