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毛包炎,癤(せつ)・癰(よう)[私の治療]

No.5260 (2025年02月15日発行) P.47

井上卓也 (佐賀大学医学部内科学講座皮膚科学教室准教授)

登録日: 2025-02-14

最終更新日: 2025-02-12

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  • 毛包炎,癤・癰は,いずれも毛包を中心とした細菌感染症である1)2)。毛孔から細菌が侵入し,感染する。毛包炎は毛包漏斗部を中心とした表在性の細菌感染症である。それに対して,細菌感染による炎症が毛包深部まで波及し,毛包の破壊を伴った膿瘍形成を伴う病態が癤である。顔に生じた癤を面疔と呼び,隣り合う複数の毛包に生じた膿瘍が互いに融合して大きな膿瘍を形成したものが癰である。起炎菌としては,黄色ブドウ球菌が多いが,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,溶連菌,緑膿菌によるものもある。

    ▶診断のポイント

    毛包炎は,毛孔を中心とした紅色丘疹であり,丘疹の頂点に小膿疱を形成することがある。毛包深部に炎症が波及すると発赤腫脹が出現し,頂点に膿栓を認める。さらに,深部に硬結や波動を伴ってくる。鑑別疾患には,炎症性類表皮囊腫,化膿性汗腺炎,多発性汗腺膿瘍が挙げられる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    毛包炎であれば,自然軽快することもあり,清潔を指導する。ナジフロキサシン(アクアチム)軟膏やフシジン酸ナトリウム(フシジンレオ)軟膏などの抗菌外用薬による治療をまず行う。外用のみで改善しない場合や,広範囲に多発している場合は,内服抗菌薬を処方する。起炎菌は黄色ブドウ球菌であることがほとんどであり,黄色ブドウ球菌はペニシリナーゼを産生するため,ペニシリンは無効である。第一世代セフェム系抗菌薬内服が第一選択である。第三世代セフェム系抗菌薬は生体内利用率が14~50%と低く,十分な組織濃度を保つことができない。そのため,治療効果が不十分になる可能性が高く,基本的には推奨されない。それに対して,第一世代セフェム系抗菌薬であるセファレキシンの生体内利用率は90%以上である3)。また,一部の黄色ブドウ球菌は,マクロライド系抗菌薬〔クラリスロマイシン(クラリス),ロキシスロマイシン(ルリッド)〕にも耐性であり,注意が必要である。

    抗菌薬の全身投与前に,膿を細菌培養検査に提出しておくことが重要である。抗菌薬への反応が悪い場合に,起炎菌の薬剤感受性を検討することができるためである。MRSAが検出された場合には,バンコマイシンなどの抗MRSA薬の使用を検討するが,市中感染MRSAの場合は,テトラサイクリン系,リンコマイシン系抗菌薬,ST合剤などに感受性がある場合が多く,バンコマイシンを使用する前に試してみるとよい。経験的にホスホマイシンに感受性がある場合もあり,処方している。

    癤・癰の場合は,内服抗菌薬の使用が必須である。発赤腫脹が強く,波動を触れる場合は,切開排膿を行う。特に癰の場合は,切開が必須である。

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