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三尖弁閉鎖不全症(TR)[私の治療]

No.5262 (2025年03月01日発行) P.47

宇都宮裕人 (広島大学大学院医系科学研究科循環器内科学診療講師)

登録日: 2025-02-28

最終更新日: 2025-02-25

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  • 三尖弁閉鎖不全症(tricuspid regurgitation:TR)は,右心房右心室間にある三尖弁が種々の原因により接合不全をきたし,高度三尖弁逆流から右室容量負荷および右房負荷を呈する病態である。三尖弁自体の変性,または弁尖・弁輪・腱索・乳頭筋・右心室を含めた三尖弁複合体の構造変化を機序とし,左心系疾患,肺高血圧症,持続性心房細動に続発して生ずることが多い。

    ▶診断のポイント

    【症状・身体所見】

    右心不全による症状はかなり進行しないと自覚されない場合があり注意が必要である。肝うっ血に基づく心窩部不快感と下肢浮腫のほか,他覚的には頸静脈怒張,肝腫大,前脛骨部ないし足背の浮腫を認める。高度の場合は腹水貯留や黄疸をみることもある。

    TR由来の心雑音は胸骨左縁下位肋間あるいはその外方で吹鳴様の全収縮期雑音として聴取されるが,呼吸性に雑音が変動するかどうかが大変重要である。心囊水や心膜拘縮がない状態においては,吸気時に胸腔内圧が低下すれば必ず心内圧も低下し,結果として静脈還流による右心系の充満が増強する。右心系の充満が増強すると,右室容積が増大することで弁接合がさらに不良となりTRが増悪して全収縮期雑音も増強する。このような吸気で増強する心雑音(Rivero-Carvallo徴候)がTRで特徴的である。

    【検査所見】

    心電図上,高度TRでは右房負荷と不完全右脚ブロックを呈する。また,心房細動を合併することが多い。胸部X線では,TRによる右室拡大は左第4弓突出を,右房拡大は右第2弓突出をもたらす。

    心エコーはTRの存在診断,重症度診断に最も重要な検査である。右心不全症状をきたすTRは通常は重症TRに限られるので,カラードプラ法によるジェットサイズ,縮流部径,TR連続波ドプラ波形,あるいは肝静脈収縮期逆流波などの所見を統合して重症TRを診断することが重要になる。有効逆流弁口面積(EROA)や縮流部面積(VCA)による定量的評価も有用で,PISA法EROA≧0.40cm2,ドプラ法EROA≧0.75cm2,または3DエコーによるVCA≧0.75cm2が重症TR診断の閾値である。重症度診断に加えて逆流原因を正確に見積もることが重要で,器質性TR,心室性機能性TR,心房性機能性TR,リード関連性TRに分類される。心室性機能性TRの原因には,大きくわけて左心系疾患,肺動脈性肺高血圧症,右室機能障害(心筋症,右室梗塞など)の3つがある。心房性機能性TRの原因は,長期持続性心房細動であることが多い。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    重症TRに対する標準治療は外科的弁形成術(または弁置換術)であるが,その適応決定にあたっては,①逆流の原因や重症度,②右心不全症状の有無,③左心系弁膜症に対する手術の必要性,さらには④手術リスクとなるような併存症(右室機能低下,肺高血圧,臓器うっ血による肝腎機能低下など)を考慮する。わが国のガイドラインでも,薬物治療に抵抗性の右心不全をきたす場合や,無症候性であっても進行性右室拡大や機能低下が認められる場合に手術を検討するなど,慎重な適応検討を求めている。術式は心機能保持の観点から弁形成術(三尖弁輪リング縫縮術)が行われることが多いが,乳頭筋吊り上げ術,edge-to-edge fixation法,心膜パッチによる弁尖延長術,といった付加的手技が必要となる場合もあり,逆流機序に関する十分な術前評価が鍵となる。

    【治療上の一般的注意&禁忌】

    〈注意〉

    浮腫の鑑別診断は日常臨床でしばしば遭遇する問題である。TRの診断には聴診による心雑音や呼吸性変動の評価が役立つが,重症例でも聴取しにくいことが多いので,雑音がないことだけでTRを除外しないほうがよい。高度の右心不全をきたす疾患として,収縮性心膜炎との鑑別は重要である。また,心エコーで三尖弁の器質的変化を伴うTRを認めた場合,リウマチ熱の既往,レフレル心内膜心筋炎,カルチノイド症候群の症状,パーキンソン病治療歴(麦角アルカロイドの服用歴)にも注意を払う。

    〈禁忌〉

    高度の右心不全症状(高度下肢浮腫,胸水貯留,うっ血性肝硬変など)を伴う場合,低心拍出を合併していることがある。こうした場合,利尿薬投与のみでは改善に乏しいことがあるため専門医へ相談する。

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