(概要) 人獣共通感染症と薬剤耐性菌への対策をテーマにしたシンポジウム(厚生労働省主催)が20日、都内で開かれ、公衆衛生の専門家らが医療・獣医療の垣根を越えた連携を訴えた。
シンポには、医療、獣医療、畜産などの専門家らが耐性菌や抗菌薬使用の状況について講演した。
抗菌薬の使用量の増加とパンデミックを起こしうる薬剤耐性菌の出現は、国際的に公衆衛生上の大きな懸案事項となっている。昨年5月の世界保健機関(WHO)総会では、エボラ出血熱などの人獣共通感染症とともに、薬剤耐性菌問題が取り上げられ、その対策に世界が協力して取り組むことが確認された。日本でも、政府が今月中に抗菌薬の適正使用などを柱とする行動計画を策定・公表する見通しだ。
●「ワンヘルス」のアプローチが重要
葛西健氏(WHO西太平洋地域事務局事業統括部長)は、「薬剤耐性菌問題は昨日の我々の行動が起こした今日の問題。明日の治療のために今行動する必要がある」と説明。中国、インド、パキスタンなどでは、抗菌薬の使用量の増加が人用、動物用ともに著しく、「パンデミックを起こしうる耐性菌が数日に1種のペースで検出されている」として、アジア地域での耐性菌対策が国際的に急務になると訴えた。
さらに、高病原性鳥インフルエンザ対策の経験から、「効果的な封じ込めは1つの国、1つの部門だけではできない」と述べ、「感染症や耐性菌の対策には、国境や医療・獣医療の垣根を越えて臨む『ワンヘルス』のアプローチが重要になる」と強調した。
●シンプルな適正使用ガイドラインが必要
医療分野の抗菌薬の適正使用について講演した具芳明氏(東北大病院講師)は、「各国の耐性菌と抗菌薬の使用状況に応じた取り組みが必要」と指摘した。
日本国内で消費される抗菌薬の大部分は内服薬で、第3世代セファロスポリン系、キノロン系、マクロライド系の使用比率が高い。具氏らの調査によると、年齢群別では0~9歳で処方量が特に多かったという。これを踏まえ具氏は、「適正使用キャンペーンの標的は小児とその両親となる」と述べた。
適正使用の取り組みとしては「医師の処方行動に介入するアプローチが世界的に増えている」とし、(1)感染症専門医による助言や病院薬剤師との連携、(2)外来で使えるシンプルなガイドラインを公的機関が作成─などが効果的との見解を示した。
●医食横断のモニタリングが不十分
田村豊氏(酪農学園大教授)は、日本の家畜における抗菌薬の使用量について、「国の適正使用ガイドラインや家畜の耐性菌モニタリング体制が確立された効果で減少しており、(家畜の)大腸菌の薬剤耐性率も減少傾向にある」と評価。一方、今後の課題として、「医療分野と食品分野をまたぐモニタリングが不十分。人用抗菌薬が多用されているペットや環境中の耐性菌も監視すべきだ」と述べた。
【記者の眼】シンポではフロアの耳鼻咽喉科医が「抗菌薬の使用は控えたいが、患者に『我慢できない』と訴えられて処方してしまう。すると患者は次の機会も抗菌薬を欲しがる」と臨床におけるジレンマを吐露する場面も。適正使用には医師だけでなく患者啓発も不可欠だ。(F)