慈恵医大の猿田雅之氏(消化器・肝臓内科主任教授、写真)が4月21日、都内で開かれた日本消化器病学会のシンポジウム「最新治療の最適化はIBDの自然史を変えるか」で講演し、炎症性腸疾患(IBD)治療の歴史と展望を概説した。
猿田氏は、1995年前後はサラゾピリン、ペンタサ、ステロイドと治療の選択肢が限られており、患者の3割を占める重症者では「ステロイド漬けになる負の遺産もあった」と指摘。しかし、この10年間に免疫調整薬と炎症誘導サイトカインを対象にした治療法が登場したことで難治患者の救済が可能になり、IBDの自然史を変えることにつながり、新たな治療目標として「“粘膜治癒”の概念が広がった」と強調。潰瘍性大腸炎(UC)の粘膜治癒症例では、再燃率、入院率、手術率、発癌率を抑えるデータがあることを紹介し、「粘膜治癒を目指し、維持する治療を私たちはやらないといけない」と訴えた。
また、現在世界で開発されている多数の新薬を紹介した後、その副作用や慢性炎症の源を治療する概念がないなどの弱点にも言及し、「私たちは突き詰めるとそこだけに行ってしまうが、新薬開発に向けて、広い視野で全身を診て泥臭い仕事もやらないといけない」と強調した。
今後については病態研究の重要性を指摘。「UCの病態は1つではない」と話し、内視鏡や病理検査で診断が確定する前段階の病態に着目した研究により「IBD完治に向けた取り組みができるのではないか」との見通しを示した。
【記者の眼】
今回の日本消化器病学会総会のシンポジウムは、各領域の重鎮から推薦された期待の若手医師がコメンテーターとして登壇する構成。このシンポのコメンテーターは、今年4月に主任教授に就任したばかりの猿田氏が担った。(N)