▼ギニアなど西アフリカ諸国でのエボラ出血熱の流行が深刻だ。世界保健機関(WHO)によると、感染者は6月末時点で635人に上り、少なくとも335人が死亡。アウトブレイクを起こした地点は60カ所を超え、現地で治療活動に当たる「国境なき医師団」は「もはや感染を制御できない」との声明を発表し、WHOも「蔓延」に備えるとして、11カ国の保健担当相を招集し対策会議を開くなど、まさに緊急事態だ。
▼エボラ出血熱の感染源はウイルスに感染したゴリラなどの肉や体液であるため、従来の流行はジャングル地帯で発生してきたが、近代化に伴い奥地の住民が都市へ流入したこともあり、今回は国際空港のある人口200万の大都市でも感染が発生している。折しも現在、FIFAワールドカップが開催中で、感染発生国からの渡航者も増加している。エボラ出血熱の潜伏期間は最長で3週間との報告もあり、他国での輸入症例の発生が懸念される。
▼さらなる流行拡大の可能性はあるのか。リベリアでエボラ出血熱治療の国際支援活動に参加した国立国際医療研究センターの加藤康幸医師によると、エボラ出血熱は発症から劇症化までの期間が非常に短く、他者に感染する前に感染者が激しい脱水症状などで死亡するため、感染力自体は強くない。また、流行の最大の原因は現地の医療スタッフを含む医療資源の圧倒的な乏しさであり、先進国を巻き込んだパンデミックに至る可能性は低いと言う。ただし、ウイルスは元々アフリカの広範囲に生息していると考えられ、それまで未発生の地域でも予期せぬ感染が発生し、新たな流行に至る可能性はあるとも話す。
▼この「従来未発生の地域で予期せぬ感染が発生する」可能性は、輸入感染症対策を講じる上で十分考慮すべき点だろう。今年1月には、ドイツ人旅行者が日本国内でデング熱に感染した可能性を「否定できない」(厚生労働省)とされる事例が報告された。国際化に伴う渡航者の増加に加え、熱帯性感染症の媒介生物が航空機で運び込まれるケースも出ている。輸入感染症の予期せぬ発生に備える必要性は大きい。
▼厚労省が6月にとりまとめた感染症法改正案では、国内症例未報告の中東呼吸器症候群(MERS)と鳥インフルエンザA(H7N9)の二類感染症への指定などが盛り込まれ、輸入感染症対策の機運が今まで以上に高まっている。予期せぬ感染症の発生に備えるためにも、空港検疫所における防疫検査と、国内でのサーベイランスの一層の強化を望みたい。