▼HPVワクチン接種の積極勧奨が中止されてから、1年2カ月余りが過ぎた。厚労省のワクチン副反応検討部会は今年1月に、「接種後の局所の疼痛が心身の反応によって慢性化した可能性がある」との見解をまとめたが、積極勧奨は再開されていない。
▼HPVワクチンは、子宮頸がん全体の 50~70%の原因を占める高リスク型HPVの16型、18型を対象としている。HPVは感染しても血中増殖がほとんどなく、潜伏・持続感染状態となるため、通常のワクチンと異なり感染そのものを予防することが求められた。つまり、高いHPV抗体価を長期間維持する必要があり、免疫反応を増強するためにアジュバント効果が重視された“新タイプのワクチン”という特徴がある。検討部会は副反応について「医学的な検証は十分に行った」としているが、臨床現場から「心身反応では説明できない症状が散見される」と指摘する声が出ている。
▼昨年末以降、若年性の線維筋痛症を思わせる患者が外来で増えたことを受け、日本線維筋痛症学会が3機関で調査を行ったところ、わずか2カ月で25名の患者が「若年性線維筋痛症」として治療を受けていたことが分かった。同疾患の若年層有病率は約4.8%とされることから、問診の結果、過半がHPVワクチンの副反応によるものと判明した。また重篤な副反応の多くは、ワクチン接種から8.5カ月後以降に発症する傾向があることも明らかになっており、接種後の30日間しか実施していない副反応検討部会の調査を「十分」と言うことはできないだろう。
▼同学会理事長の西岡久寿樹氏は副反応による症状について、「線維筋痛症の広範囲性疼痛以外にも『高次脳機能障害』を示唆する症状が全体の70%で認められる“新しい病気”と捉えている」という。多くのリウマチ性疾患や線維筋痛症もかつては「心因性」とされたが、現在では病態解明や治療法が確立されつつある。HPVワクチンについても、「心身反応」という先入観を排除した上で研究を進めることが、勧奨再開の判断に加え、現在苦しんでいる患者の治療にとって有効なのは言うまでもない。
▼厚労省は世界保健機構(WHO)がHPVワクチンの安全性を担保していると主張するが、フランスでは副反応に関する公聴会でアジュバント成分の危険性が指摘されている。16型、18型の持続感染を90%以上予防するとされるワクチンの効果とリスクを含め、改めて医学的な検証を十分に尽くしてほしい。