▼改正感染症法が14日の衆院本会議で可決、成立した。突如巻き起こった解散風に、数々の法案が廃案あるいは審議見送りとなる中、優先的に審議が行われ、成立まで漕ぎ着けたことは喜ばしい。
▼今回の法改正のポイントは、感染症の情報収集体制の強化だ。一類・二類感染症および新型インフルエンザ等の新興感染症の疑いがある場合に限り、都道府県知事の権限で患者からの検体採取・提出を要請することを認める規定が創設された。
▼国民の健康に重大な影響を及ぼす恐れのある感染症の対策には、迅速な情報収集が不可欠であり、中でも検体は診断を左右する最も重要なカギだ。これまで「個人情報」を理由に採取が拒否されるという問題があったが、一定の強制力を持った規定創設で、情報の「収集」は一歩前進したと言える。
▼一方、感染症の情報の「公開」については、まだ課題が残っている。厚生労働省と国土交通省は今月4日、エボラ出血熱の疑似症を呈する患者が航空機で日本に到着した場合、検体の搬送段階から、国籍・年齢・性別、搭乗機の会社名と便名を公表すると発表した。このため、7日にギニアから関西国際空港に到着した際に発熱を訴えた女性は、PCR検査の確定結果が出る前から大きく報じられた。また、リベリアから帰国後発熱し近医を受診した男性は、指定医療機関への搬送前から情報が公開された。
▼エボラ出血熱の感染経路は、患者の体液等への接触だ。嘔吐・下痢の症状がなく発熱のみの患者の搭乗便まで公表しては、いたずらに不安を煽りかねない。近医を受診した男性の場合、一般医療機関に行かないよう求める検疫所の呼びかけや、厚労省が医療機関に対し渡航歴の確認を求める通知の周知が不足していたことが問題なのであり、感染症対策として疑似症段階での情報公開に意味があったのか、大いに疑問だ。
▼医療機関におけるエボラ出血熱対策は、発熱している患者が流行国への渡航歴を正直に答えるかどうかにかかっている。過剰な患者情報の公開は、検疫所や医療機関での申告を躊躇させかねず、水際対策や二次感染防止策が水泡に帰す可能性を孕んでいる。
▼新興感染症に関しては、行政が情報を逐一公開することが国民の不安解消に資するとは限らない。厚労省、国交省においては、誤ったリスク評価による過剰な情報公開とならないよう、疾患の特性に応じた情報公開の基準が整理されることを望みたい。